禁断の科学裁判
 
−−−ナウシカの腐海の森は防げるだろうか−−−

裁判の資料−−2005年(平成17年)度野外実験の中止を求めた仮処分事件−−

当事者の主張(日付は2005年)
一審(新潟地方裁判所高田支部)
申立人(債権者) 相手方(債務者)
日付 題名 内 容 日付 題名 内 容
6.24 仮処分申立書
目 次
第1、はじめに
第2、当事者
第3、被保全権利
第4、GM技術の問題点
第5、我が国におけるGMイネ野外実験の経緯
第6、GM作物野外実験が正当化されるための条件
第7、本GMイネ実験の検討
第8、保全の必要性
****************

第1、はじめに
1、近年の食品事故の特徴
 食品事故の近年の大きな、なおかつ未曾有の特徴として、
第一に、大規模な食品事故が、年を置いてではなく、毎年のように多発していること、
第二に、それが有害化学物質というより、病原性微生物を原因とする食品や家畜を介在した新興の感染症(BSEや鳥インフルエンザなど)の脅威にさらされていること、
つまり、ここ近年、バイオハザード(生物災害)の危険性が飛躍的に増大していることが挙げられる(疎甲1「食品安全システムの実践理論」2〜3頁参照)。
しかも、バイオハザード(生物災害)の危険性とは何もバクテリアやウィルスといった微生物に限られず、たんぱく質をめぐっても発生する。、1988年、新潟水俣病の加害企業であった昭和電工が製造した、必須アミノ酸のひとつ「トリプトファン」を含む健康食品を食べた人が多数死亡する(34名死亡、患者数1200名以上)という「L−トリプトファン」事件は、原因が迷宮入りした我が国最初の遺伝子組換え食品事故として今なお記憶に生々しい(疎甲2「大系 環境・公害判例5」 153頁)。本件もまた、「ディフェンシン」というたんぱく質をめぐる実験の危険性・問題点が争われたものである。
‥‥>>3頁

第2、当事者
‥‥>>5頁

第3、被保全権利
1、債権者番号1〜2

 前記のとおり、債権者らは、本件田圃の周辺地域で、新潟産コメを生産、販売し生計を維持してきたものである。 ‥‥>>5頁

第4、GM技術の問題点
‥‥
2、GM技術固有の危険性・問題点
 また、GM技術は、これまでの機械的な技術とは本質的に異なるものであり、それゆえ、そこには必然的にGM技術固有の危険性・問題点を孕んでいる。つまり、 ‥‥>>9頁

3、GM事故固有の特質
 したがって、上述したGM技術固有の危険性・問題点により、GMにまつわる事故もまた、次のGM事故固有の困難さを帯びざるを得ない。
 (1)、予見不可能性 ‥‥>>10頁

第5、我が国におけるGMイネ野外実験の経緯
 我が国では、これまで、GMイネ野外実験の計画の発表に対し、当該野外実験の危険性・問題点を憂慮する多くの市民の声が上がり、これを受けて、以下の通り、実験中止という措置が取られて来た。 ‥‥>>12頁

第6、GM作物野外実験が正当化されるための条件
1、前述した通り、本件では、GM作物野外実験をめぐって、債務者の学問研究の自由と、そこからリスクを負うだけでベネフィットは何もない債権者の安全に安心して食することができる人格権等の権利のみならず、債権者にはならなかった全国規模の市民の同様の権利とが衝突し、その調整が求められている。では、この調整原理について、実定法はいかなる態度を取っているか。 ‥‥>>13頁

第7、本GMイネ野外実験の検討
では、本GMイネ野外実験はこれらの3つの条件を満たしているといえるか、以下検討する。 ‥‥>>14頁

第8、保全の必要性
以上を総合すると、本GMイネ野外実験により、リスクのみ負いベネフィットは何もない債権者らが被る被害は言うまでもなく、その受忍限度を優に超える。  ‥‥>>19頁




6.27 準備書面1

【参考資料】
争点一覧表(詳細版)

争点一覧表(簡易版)
訴状の主張・立証の補充

1、 本実験の必要性について
‥‥本GMイネ野外実験の目的のひとつは、「いもち病に強いイネの栽培」とされる(疎甲3。プレスリリース「本GMイネ野外実験説明会の案内」)。しかし、既に、従来の品種改良により同一の目的を達成したイネ(たとえば新潟県の開発品種「コシヒカリBL」疎甲6)が存在しており、わざわざ危険性のあるGM技術を用いる必要など全くない。
 今般、このいもち病に強い新潟県の開発品種「コシヒカリBL」の誕生を裏付ける新潟県作成の疎明資料を追加提出する(疎甲10)。 ‥‥>>2頁

2、 実験の危険防止手段の正当性について
‥‥しかし、現場の研究により、実際のイネの花粉の飛散距離は最大で900mにまで達するという論文(疎甲13)があり、ましてや、本実験場は、夏には北東からの風が強く吹く地域にあり(そのデータは近日中に提出予定)、こうした状況に照らしてみたとき、本実験の上記交雑防止措置では不十分極まりないことは言うまでもでない。 ‥‥>>2頁

3、 本実験に対する地元自治体および市民の反応
 本年4月、債務者より、本実験の実施が表明されるや、地元住民から、
「北陸研究センターが実験説明 県内農家反対相次ぐ」(4月30日新潟日報。疎甲9の5)
「屋外実験延期の声続出 北陸研究センターの遺伝子組み換えイネ"風評被害"懸念」(4月30日上越タイムス。疎甲9の3)
の声が上がり、それを受けて、新潟県、上越市をはじめ多くの自治体からも、
「県側は『地元農家らの理解を十分得られるよう慎重に進めてほしい』と要望」(5月11日日新潟日報。疎甲9の3)
‥‥>>3頁

6.28 答弁書
7.4 求釈明書1 相手方に対する釈明の要求。

1、本実験の全体にわたってその内容を具体的に詳細に説明した書面の提出
(1)、つとに知られている通り、一般に、原子力事故、バイオハザード(生物災害)、医療過誤といった高度の専門的領域をめぐる事故・紛争においては、一方にのみ証拠が偏在するという問題が宿命的に伴う。従って、そのような紛争の迅速かつ適正な解明のためには、当然のことながら、専門的な証拠を保有する側が積極的にこれを開示することが要請され、また、それによって初めて、当事者間の実質的な公平な裁判が確保される。 ‥‥>>2頁

2、GMイネを栽培中と投書で表明した農家に対する債務者の対応
 先週、新潟県で大騒ぎになった出来事として、今月1日付の新潟日報の投書欄「窓」に掲載された「組み替え稲 有機農法で栽培中」という記事の問題がある。 ‥‥>>5頁

3、その他の書面・データの提出について
‥‥(3)、債務者は、本仮処分の審理を迅速かつ充実したものにするために、答弁書等のデジタルデータを交付されたい。 ‥‥>>6頁




7.11 準備書面2
目 次
第1、はじめに――現在の審理の状況の確認――          
第2、事実関係の主張       
第3、法律関係の主張       
第4、求釈明             
第5、結論 
****************
第1、はじめに――現在の審理の状況の確認――
 本裁判は、あくまでも本野外実験の安全性の解明を目指すものであって、債務者の人格を問題をするものではないが、ただし、本野外実験の運営主体がほかならぬ債務者である以上、債権者もまた、本裁判に現れた債務者の安全性に対する態度、問題点を指摘する市民への対応振りというものを、その限りで問題とせざるを得ない。 
 総論における「適切な情報開示・提供」という美しいコトバと、各論の具体的な場面における打って変わった残忍酷薄な態度――債務者のこの二面性が、本裁判の具体的な審理の場で如実に現れている。
 なぜなら、債権者が、7月4日付の求釈明書(1)で、本野外実験の安全性の解明する上で最低どうしても必要なささやか債務者の手持ち資料の開示を求めたにもかかわらず、「適切な情報開示・提供」の責務を表明した債務者は、今までのところ、だんまりを決め込んだまま、何の反応もしないからである。
‥‥>>2

第2、事実関係の主張
申立後、本野外実験の危険性・問題点の吟味を重ねる中で、債権者は、問題点を次の2つ、
@「本野外実験の危険性」
A「本野外実験の必要性・有用性」
に分類整理して、以下、主張する(参考までに、申立書、債権者準備書面(1)、及び答弁書の争点を整理し、これらと今回の主張との関係が一目で分かる争点対比一覧表を作成したので、書証として提出する。疎甲25)。
1、 本野外実験の危険性について
(1)、債務者の交雑防止措置について(債権者準備書面(1)2頁)
この点につき、債務者は次のように主張する。
《このようなことが絶対生じることのないようあらゆる可能性を検討した上で万全の注意を払って本実験を遂行しており》(答弁書9頁。以下、単に頁のみ表示)
では、債務者の実際の交雑防止措置は果してどうだったのか。‥‥>>4頁

(2)、ディフェンシンの作用機構(人体への影響など)の未解明の点について
申立書において、《ディフェンシン‥‥が果してヒトの細胞に害が及ばないかどうかなど、その作用機構が解明されていない。》(17頁)と本GMイネ開発の根本問題を提起したが、答弁書においてあれほど饒舌な債務者は、これに関して黙したまま一切語らない。‥‥>>9頁

(3)、「ディフェンシンが食用部分には絶対に移行しない」ことを実証する実験を実験室内で検証しておく必要性について(19頁)
この点につき、債務者は次のように反論する。
《ディフェンシン蛋白質が胚乳部分(白米として食用にする部分)には残存していないことを債務者は実験的に確認しているし、実験室内で所要なデータはすでに収集済みである。》(16頁)
しかし、これは全く反論になっていない。なぜなら、‥‥>>10頁

(4)、ディフェンシンに対する耐性菌の出現の問題(18頁)
ア、申立書における
《既にディフェンシンが効かない病原菌が存在するが、本GMイネの誕生によって、さらに耐性の強い病原菌が誕生することが予測される。》
という根本的な問題提起に対し、債務者は、次のようにキッパリと反論する。
《ディフェンシン蛋白質のような抗菌性タンパク質の場合‥‥耐性菌の出現の余地は科学的になく、また実際耐性菌の出現についての報告もない》(12頁)
 しかし、これは完全な虚偽である。
‥‥>>11頁

(5).土壌微生物への影響の問題
ア、この間の本野外実験の危険性の吟味から、新たに次の問題点が浮かび上がってきた。それは、本野外実験による土壌微生物への影響の問題である。
 この点、土壌微生物解析も専攻する金川貴博氏は、次のように述べる。 ‥‥>>13頁

(6)、ディフェンシン遺伝子が真実、自然食物から取られたままの手を加えていないものかどうかという疑問(16頁)
申立書において、債権者は次のように主張した。‥‥>>15頁

(7)、いもち病菌や白葉枯病菌の拡散の問題(15頁)
 この点、債務者次のように反論する。
《そもそも本実験においてはいもち病菌等の噴霧試験は行わず、病菌に罹患した苗をGMイネの苗に隣接して栽培する方法により、罹患可能性を検証する方法で行う》(11頁)
 しかし、これは明らかにおかしい。‥‥>>17頁

(8)、イネ花粉の花粉症への影響
この点、債務者は一切触れていない。しかし、債権者は、この間の調査の中で、債務者が本野外実験において、イネ花粉の花粉症への影響についても対策を講じなければならないことが判明した。‥‥>>18頁

2、「本野外実験の必要性・有用性」について
 その一方で、本野外実験は、以下に見るように、その必要性・有用性が認められず、またそれを実証するデータもない。 
(1)、ディフェンシン遺伝子導入イネの有用性を証明した実験データの不存在
 申立書の、《本野外実験で使われるディフェンシン遺伝子を導入した形質転換イネのイネいもち病および白葉枯病に対する単独および複合抵抗性を検証したデータの提示が十分でなく、本実験の有用性も明らかでない。》(15頁)
に対して、債務者は次のように反論する。‥‥>>19頁

(2)、いもち対策として従来の品種改良イネで十分(14頁)
 この点、債務者は次のように反論する。‥‥>>19頁

(3)、いもち病の被害の程度(14頁)
ア、債権者が申立書で主張した、《イネ収穫量全体のわずか1.8パーセント(2001年から2003年の3年間の平均)にすぎない》証拠は、農水省の統計資料に基づく(疎甲37)。‥‥>>20頁

(4)、本野外実験の目玉にしている技術の拒絶査定
 本野外実験(その第1回目は、昨年2004年に実施)に先立つ2003年12月22日のプレスリリース《我が国独自の技術で安心な組換えイネを開発》において、債務者は、
《カラシナ由来のディフェンシン遺伝子が複合病害抵抗性付与に最も効果の高いことを確認し、本研究に用いています(特許出願公開中:特開2003−88379)》(疎甲7)
と、本GMイネの研究が特許出願中の我が国独自の技術によるものであることをアピールしている。‥‥>>21頁

(5)、食品安全性の審査を受けていない実験手順の問題(16頁)
 この点、債務者は次のように反論する。
《(1) そもそも北陸研究センターが開発を企画している本実験の成果物は食に供されるものではなく、いわんや食品として流通することも一切ないので、食品安全審査を受けるべき前提を欠く。
 (2) すなわち、本実験は、法律上、本来的に食品安全審査を経ることが不要なのであり》(8頁)
 しかし、これは次の理由から、全く反論になっていない。‥‥>>22頁

(6)、もみいもちタイプのいもち病菌にとって天国の出現(17頁)
 債権者が申立書において、債務者は「食用部分にはディフェンシンは発現しないもしくは移行しないので安全である」と本GMイネの安全性を強調するであれば、それは本GMイネの葉や茎はいもち病菌の感染に抵抗性を示すだろうが、しかし、今度はディフェンシンが存在しないもみの部分はいわば無防備の状態にある、と指摘したことに対して、債務者は、
《そもそももみに好んでとりつくタイプのいもち病菌(もみいもち)というものは存在せず、イネの葉に感染するいもち病菌と,イネの穂に感染するいもち病菌は同じ菌である。》(16頁)
と反論する。
 しかし、これは単なる揚げ足取りであり、債権者が提起した問題の本質に何も答えていない。‥‥>>24頁

(7)、花粉の不稔化など予防対策の不在
債権者は、申立書で、本野外実験の目的が不明であることにつき、次のように指摘した。
《一般に、野外実験の最大の目的とは、近傍の植物との交雑可能性の検証であり、通常なら、花粉の不稔化(花粉に操作を加えて交雑"不能"にしておく)など予防対策を講じた上で、それでも起こりうる頻度を検証するものである。ところが、本GMイネ野外実験はこうした予防対策を何も講じていない(このままでは交雑するのは当然)。他方で、本実験のように植える時期を近隣のイネとずらしたりしては、肝心の検証すらできない。一体何を目指して本野外実験するのかその目的が不明である。》(15頁)
しかし、この重要な指摘に対して、債務者から一言もない。‥‥>>25頁

3、その他
(1)、「実験中止による債務者の回復不可能な損失」と「債権者の回復容易な損失」について

ア、債務者は、本野外実験の中止により、債務者は回復不可能な損失を被るが、本野外実験の強行によっても、債権者の被った損害は容易に回復可能だと主張する(17頁・14〜15頁)。
 しかし、それらは以下に述べる通り、すべて理由がないどころか、故意に事実を捻じ曲げたものとしか思えない。‥‥>>26頁

第3、法律関係の主張
1、「本野外実験の適法性」について
(1)、カルタヘナ法遵守の意味

 この点、債務者は、次のように主張する。
《本実験が(カルタヘナ法などの)関係法規をすべて遵守して行われており、法的根拠を有する》(6頁)
 しかし、制定後日の浅いカルタヘナ法には様々な不備が指摘され、従って、カルタヘナ法等の関係法規を遵守するとは何を意味するのか、この点を吟味しておく必要がある。‥‥>>27頁

(2)、地元住民の同意または十分な理解の不存在
ア、債務者は、本野外実験に対する地元住民の同意について、次のように主張する。
《そもそもカルタヘナ法においては、実験を実施する近隣への説明まで求めるものではないが、債務者は、「国民の理解のもとで円滑な栽培実験が行われる」ことを求める農林水産省の定める栽培実験指針(乙4)に従い、自主的に情報提供と意見交換に努めてきた(乙5)》(7頁)
 しかし、これは、次に述べる通り、カルタヘナ法の不備に対する無理解に由来するものであり、また、現実上の同意の手続に対する認識も的外れとしか言いようがない。‥‥>>30頁

2、その他の論点
(1)、被保全権利

ア、憲法との関係
 もともと「憲法で規定されている価値の中には私人を含めた社会全体の基本的価値たるべきものが規定されているので、その価値を否定するような私人間の行為は90条によって公序良俗違反となる可能性がある」(四宮和夫「民法総則」234頁)。これと同様の意味で、そのような価値を否定するような事実行為も民法の不法行為となる可能性がある。‥‥>>31頁

(2)、損害
ア、債務者は、債権者には《損害発生について具体的摘示がな》いと主張する(18頁)。
イ、しかし、もともと本差止の主眼は、損害賠償ではなく、何よりも人格権の侵害であり、差止にとっては、それで必要かつ十分である。‥‥>>32頁

第4、求釈明
 以上述べたことから明らかな通り、本野外実験の安全性の解明は、肝心な証拠を殆どすべて保有する債務者の情報公開なしにはあり得ない。よって、債権者らは、本野外実験の安全性の解明にとって不可欠な情報公開を債務者が速やかに実行するよう、次の通り、釈明を求める。‥‥>>33頁

第5、結論

 植物育種学専攻の生井兵治氏(元筑波大学大学院教授)は、わが国の現在のGM作物の野外実験について、こう論評する。
《基礎研究をじっくり進めれば安全な活用の可能性はあるかもしれないが、現時点では安全性や環境への影響に関する基礎研究が乏しすぎる》(本年6月16日新潟日報。疎甲28)
‥‥>>34頁


7.13 準備書面1
7.20 準備書面3


準備書面4
準備書面3
1、前置き――前提問題に関する再反論――
 以下に述べることは本野外実験の前提事実に関することで、本野外実験そのものの危険性・問題点とは直接関係ない。‥‥
2、答弁書に対する債権者の再反論
(1)、債務者は、GM作物と食品事故の関係について、以下のように反論する。 ‥‥>>2頁


準備書面4
第1、 再度の求釈明
 債権者は、本野外実験の危険性・問題点を可能な限り解明する上に前提となる本野外実験の具体的な内容を明らかにする資料の提示を求めたが(債権者求釈明(1))、債務者は、既に債権者がネットから入手して提出した第一種使用規程承認申請書(疎甲21)でもって「必要かつ十分であると思料する」と回答した(債務者準備書面(1)10頁4)。‥‥>>2頁

第2、 債務者準備書面(1)に対する反論

1、 疎乙号証に対する反論
債務者は、その立証趣旨を、《本実験が国家戦略として重要性を持つこと》と主張する。
しかし‥‥>>3頁

2、 白葉枯病に対する有効性
本野外実験の必要性の点について、債権者が、その必要性がない理由の一つに、従来の品種改良によるコシヒカリBLなどを主張した(申立書14頁)のに対し、債務者は、本GMイネは《いもち病及び白葉枯病というイネにとっての2大病害に複合抵抗性を発揮する》(2頁(4))ことをしきりと強調する。
しかし ‥‥>>6頁

3、 渋谷氏投書問題について
 《GM関係者なら絶句するほかない》と債権者が評した渋谷氏の新潟日報への投書の発言(疎甲16)に対して、債務者は、明確な根拠を何一つ示すことなく《特段絶句しているわけではない》(10頁5)と回答した。
しかも ‥‥>>6頁

第3、債権者の今後の主張

‥‥近く、法律論について、より詳細な主張を明らかにする。
その際、債権者の主張に大きな影響を与えるであろう事例が、近時、マスコミでも大きく取り上げられるに至った。「アスベスト(石綿)」問題である。 ‥‥>>7頁




7.26 追加の申立書 申立人を1名追加。



8.1 準備書面5        
目 次
第1、裁判の進行について――時期に遅れた攻撃防御方法の却下――
第2、事実関係の整理   
第3、その他の事実関係  
第4、本野外実験の違法性について――法律関係――

****************

第1、裁判の進行について――時期に遅れた攻撃防御方法の却下――
 最初に、本裁判の進行について、一言述べておきたい。
 かねてより、債権者は、本裁判は、本野外実験の安全性の有無という真相解明のためには、証拠が債務者の元に完全に偏在しているため、必要な証拠の提示を再三再四、債務者に要請してきた。 ‥‥>>2頁

第2、事実関係の整理
 ここでは、本野外実験の性格上多岐にわたらざるを得なかった債権者のこれまでの主張を、その重要性の観点から、全体を整理しておきたい。1、はじめに
2、本野外実験の問題点 
 事実関係において、債権者がほかならぬ本野外実験を問題だと考える根拠は、大別して次の3つにまとめられる。
第1に、室内実験において本GMイネの安全性・問題点を十分に詰め、解決していない現段階で、野外実験に移行するのは時期尚早であり、その危険性の点から許されないこと。
第2に、その本野外実験の交雑防止やイネ花粉防止などの安全対策の点において見過ごすことのできない不備があり、その危険性の点から許されないこと。
第3に、他方で、こうした問題の多い本野外実験を敢えて推進する積極的な必要性・有用性が認められず、またそれを実証するデータもないこと。 ‥‥>>3頁

第3、その他の事実関係      
1、実験中止により債務者に回復不可能な損失が発生するか否か
 この点、債権者は、既に有機農家の金谷陳述書(疎甲18)で、債務者に回復不可能な損失が発生しないことを具体的に立証した(4〜5頁)。‥‥>>9頁

2、債権者の被る損失は回復容易なものか否か
 この点も、既に金谷陳述書(疎甲18)で、債権者の被る損失は回復容易なものではなく、その反対の回復不可能なものであることを具体的に立証した(5〜6頁)。‥‥>>10頁

3、同じ主食の小麦について、GM小麦商品化事件の顛末と教訓
 米と並んで世界の主食である小麦について、昨年5月に、GM小麦の商品化が断念されたという本件にとっても貴重な事件が存在する。‥‥>>10頁 
 
第4、本野外実験の違法性について――法律関係――
1、GM作物の安全性の評価についての基本原則

 GM作物の安全性の評価についての基本原則とは「予防原則」である。‥‥>>11頁

2、カルタヘナ法の不備について
 わが国のカルタヘナ法が生物多様性の保全という基本理念に照らし種々の点で不十分なものであり、具体的に、保全すべき「生物」の範囲を、《栽培植物や飼育動物を除外し、基本的に野生生物だけを対象とした(4条5項参照)》(29頁)ことは、準備書面(2)で主張した通りである。‥‥>>11頁

3、地元住民の同意またはそれと同等の「地元住民の十分な理解」の不存在
 様々な不備を抱える我が国のカルタヘナ法が本件において「地元住民の同意」を要求しないのは、本法の目的が野生生物の多様性を保全することに限定し、栽培植物を除外したためである。 ‥‥>>12

4、被保全権利
 個人の生命、身体、健康、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、この総体を人格権ということができ、何人も、この人格権を侵害されることなく、また、総体としての人格権のひとつとして、今日、
(1)、良好な生物多様性が維持された良好な自然環境の中で平穏に日常生活を営む権利及び
(2)、良好な生物多様性が維持された良好な自然環境の中で安全に安心して食する権利
が極めて重要になってきており、これらが侵害されたときは侵害行為を差し止めることができる(昭和50年11月27日大阪高裁「大阪空港公害訴訟」判決参照)。 ‥‥>>13頁

8.1 準備書面2
8.3 準備書面6 第1、被保全権利に関する主張−−人格権に基づく差し止め−−
1 申立書及び債権者準備書面(5)で述べているとおり,債権者らは債務者に対し,人格権に基づき,債務者らの試験栽培の中止を求めている。 ‥‥>>1

第2、債務者の準備書面(2)の反論
1 しかるところ,債務者は,準備書面(2)においても,債権者らが準備書面(5)の第2、事実関係の整理の3、第1の問題点(4頁以下)で、具体的に指摘する本野外実験が室内実験から野外実験に移行するために本来解決しておかなければならない重要な安全性・問題点について1つも反論をしないまま,イネの交雑は「理論的可能性自体」がなく,しかも本実験では,3重の交雑防止措置が取られていると主張し,債権者らの指摘する危険性は,「主観的不安」(根拠のない不安という趣旨か)にすぎず,債権者らの無理解による本申立は「非常に遺憾」とまで述べている。
 しかし、債権者らが上記問題点を裏付けるためにこの間提出した証拠は,すべて科学者及び農業従事者の意見に裏打ちされたものであり,債務者との見解の相違は,科学的真実の見極めた方の相違と考えている。これを主観的不安とか無理解で片付けようとする債務者こそ,池内教授が指摘される科学者のヤバン性(疎甲24号証)に陥っているものと思わざるを得ない。‥‥>>3頁

第3 債務者の交雑防止策について
1 「交雑が発生する理論的可能性がない」という債務者の主張は,農業の現場に日常的に交雑を経験している農業従事者からすれば,余りに非現実的な理論といわざるを得ない上,その他の主張部分も首を傾けざるをえないものが枚挙にいとまがない。‥‥>>4頁

第4 まとめ
1 BSE(狂牛病)問題を契機に,平成15年7月,わが国においても,ようやく「食品安全基本法」が制定された。‥‥>>6

8.2 追加申立に対する答弁書
8.10 準備書面7
目 次
第1、はじめに
第2、交雑防止措置の不完全    
第3、本野外実験の無意味性    
第4、ディフェンシン耐性菌出現の危険性と流失の危険性について
第5、室内実験の問題点未解決の違法性について  
第6、野外実験の条件の変更の違法性
****************

債権者らは、債務者の準備書面(3)について以下のとおり反論する。
第1、はじめに
本裁判の締めくくりの書面として、最初に確認しておきたいことがある。それは法律の基本原理についてである。‥‥>>2頁

第2 交雑防止措置の不完全
1 債務者は答弁書において、GMイネ花粉の一般イネとの交雑防止措置として‥‥交雑の余地ないしおそれは一切存在しないと主張していた(10頁)。
2 しかし、債務者が主張する交雑防止手段としての離間距離は、限られた5つの検出例から推計されたものにすぎない(疎甲26)。 ‥‥>>3

第3 本野外実験の無意味性
1 債務者は答弁書4頁において、本野外実験の目的は、隔離圃場条件下で、対病性評価、生育評価、生物多様性評価及び採種を行うことにあると主張していた。‥‥
 ところで、債務者が、本野外実験において取ろうとしている交雑防止措置は、イネの生育にとっては極めて過酷なもので、屋外圃場における一般のイネ栽培とは全く異なる環境のため、野外実験としての価値をほとんど失わせている。しかも、上記のとおり、開花時期のイネの生育状況の観察は極めて限定されたものとならざるをえず、十分な観察資料の収集は望めない。‥‥>>6頁

第4、ディフェンシン耐性菌出現の危険性と流失の危険性について
1、冒頭の「1、はじめに」で明らかにした通り、まず、この危険性について事実判断を検討する。 
本裁判で、債権者は、当初から一貫して、
(1)、本野外実験により、ディフェンシンの耐性菌が容易に出現する可能性があり、
(2)、出現した耐性菌の耐性機構いかんによっては、人類および動植物の防御機構に重大な影響を及ぼす可能性があり、
(3)、にもかかわらず、債務者は、本野外実験の準備段階から今日まで、この問題を全く認識しておらず、出現した耐性菌が容易に外部に流失・伝播する危険性がある
という「本野外実験の看過できない最も重要な問題」を主張・立証してきた(申立書18頁。準備書面(2)11頁以下。同(5)4頁以下。同(6)3頁以下)。
2、これに対し、債務者は、
前記(1)と(2)を否定した(答弁書12頁・準備書面(3)5頁)。
3、しかし、前記(1)について、研究者の金川貴博氏(疎甲19、80、91)、河田昌東氏(疎甲81)らが指摘する通り、‥‥
4、次に、前記(2)について、前記金川氏、河田氏のみならず、この問題の重大性を憂いる全国の研究者からも次のように指摘されている(疎甲86〜90。92)。‥‥
5、債務者の反論
 これに対する債務者及びこれを支持する研究者の反論は、煎じ詰めれば、次のように要約することができる――過去の事例・経験から、これまで、ディフェンシン耐性菌が出現した報告はなく、出現したとしても、ヒトや土壌微生物に悪影響を及ぼした事態は起きていない。従って、ディフェンシン耐性菌は出現しないし、仮に出現したとしてもその危険性はない、と(準備書面(3)5頁。疎乙106の高木報告書2頁以下)。
 しかし、これは科学的な認識として根本的にまちがっている。なぜなら、‥‥>>9頁

‥‥以上が、ディフェンシン耐性菌出現の危険性に対する事実判断である。
6、ディフェンシン耐性菌出現の危険性の法的判断
そこで、次に、ディフェンシン耐性菌出現の危険性に対する法的判断を検討する。
「GM作物の危険性」を判断する際の原理となるものは、言うまでもなく、カルタヘナ議定書第1条に明記され、確立した「予防原則」である。‥‥>>11頁

第5、室内実験の問題点未解決の違法性について
 債権者は、本野外実験の第1の問題点として、そもそも室内実験において、以下の本GMイネの安全性・問題点を十分に詰め、解決していない現段階で、野外実験に移行するのは時期尚早であり、その危険性の点から許されないと主張してきた(準備書面(5)4頁以下)。 ‥‥>>12

第6、野外実験の条件の変更の違法性
 債務者は、本年8月3日の審尋期日の席上、債務者準備書面(2)の別紙6の出穂予測の記載について、本野外実験の圃場のGMイネと周辺農家の一般イネとの開花期間のズレが1日しかないことを認めた。
 ‥‥しかも、これはもちろん一般論として述べたもので、周辺農家の個別の確認を取ったわけでもなく、当然、その例外は発生する。つまり、実際上、本GMイネと周辺農家の一般イネとの開花期間が重なることが起き得る。よって、債務者が交雑防止措置のひとつとして掲げた「時間的間隔」(準備書面(2)2頁末行以下)は実効性がなくなったと言わなければならない。
 よって、債務者の本野外実験の安全性確保のための措置が1つでも実効性を失った以上、本野外実験の適法性を基礎付ける重要な要素が欠けたというべきであり、ただちに、本野外実験は中止すべきである。 ‥‥>>13頁

8.8 準備書面3



8.12 準備書面4
8.17 裁判所の判断(申立却下)

目 次
第1、申立て
第2、事案の概要
1、 争いのない事実                               
2、 債権者らの主張
(1)、本件野外実験の実施                            
(2)、本件野外実験の問題点
 ア、本件GMイネの安全性、特にディフェンシンの耐性菌問題等    
 イ、本件野外実験の安全対策
  (ア)交雑の可能性                              
   (イ)イネ花粉防止                              
  (ウ).本件野外実験の必要性や有用性の不存在                  
  ウ、説明責任の不履行と予防原則違反          
   (ア)カルタヘナ法本来の理念                         
   (イ)予防原則
(3)被保全権利と保全の必要性                           
3、 債務者の主張
(1)、本件野外実験の趣旨・目的
(2)、遺伝子組換え実験に関する法的規制等                     
(3)、本件野外実験の必要性と相当性                        
(4)、本件野外実験の安全性     
 ア 室内実験の実績                              
 イ 自然交雑の危険性                             
 ウ 病原菌飛散の可能性                            
(5)、債権者らの主張に対する反論                          
(6)、債務者の回復し難い損害の発生                        
第3 当裁判所の判断
1 前提となるべき事実                              
2 当裁判所の判断                                
 (1)、本件事案における問題点の所在と争点
 (2)、バイオテクノロジーとバイオハザード                     
 (3)、遺伝子組換えに関する規制                          
 (4)、交雑の可能性について                           
  ア イネ花粉の性質と受粉   
  イ 債務者の花粉飛散防止策     
 (5)、ディフェンシン耐性菌等について                       
 (6)、まとめ                                  



2頁
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17頁
17頁
19頁
21頁



二審(東京高等裁判所)
申立人(債権者) 相手方(債務者)
日付 題名 内 容 日付 題名 内 容
8.18 即時抗告申立書 新潟地方裁判所が平成17年8月17日に下した申立却下の決定に対する異議申立。




8.25 準備書面8 即時抗告の理由を主張。
目 次
第1、はじめに
1、GM技術の本質と政府の基本理念2、原審裁判の特徴――債務者と裁判所の対応――  
3、本準備書面の目的    
第2、二重の袋がけの措置に対する事実認定と判断の誤り
1、問題の所在――重大な前提問題――        
2、二重の袋がけの措置の安全性について       
第3、ディフェンシン耐性菌に対する事実認定と判断の誤り
1、問題の所在       
2、原審の判断とその誤り
3、ディフェンシンの土壌微生物への影響について   
4、ディフェンシン耐性菌の圃場からの流出・伝播の危険性について   
第4、本野外実験の危険性の判断基準について
1、原審の態度       
2、原審の問題点      
3、本野外実験に固有の実情・特質を踏まえた判断基準について     
第5、本野外実験の第1種使用規程の承認手続について
1、原審の判断       
2、原審の問題点      
第6、最後に――問題点の一覧表の提出と技術説明会の早期開催――
1、本裁判の新しさと困難さ
2、技術説明会の早期開催の必要性

****************

1、遺伝子組換え技術の本質と政府の基本理念
 20世紀の人類が手に入れた最も威力ある技術が原子力技術だとすれば、21世紀のそれは遺伝子組換え(以下、GMと略称)技術であろう。それは、「あらゆる生物的障害や境界をこえて遺伝子を移転させることは、人間の歴史上前例のない技術上の力業」という意味で、「第二の創世記」とも呼ばれる(疎甲45の3。108頁)。しかも、原子力技術が物理学の最先端の成果だとすれば、GM技術は、物理学のみならず化学、生物学、農学、医学、薬学、コンピュータ科学などの諸学問の最先端の集大成である。つまり、GM技術が人類に及ぼす影響は、原子力技術の比ではなく、我々の日常生活の隅々にまで及ぶ。
そしてまた、原子力技術がその絶大なる恩恵・威力と共に未曾有の脅威・災害をもたらしたのと同様に、GM技術もまた同様の構造にある。「ごくわずかとはいえ環境を爆発させる引き金になる可能性があり、かりに引き金となった場合には、その影響は重大であり取り返しがつかないものになるおそれがある」(疎甲45の3。111頁)。従って、GM技術が我々の日常生活の隅々にまで及ぼす影響の大きさを考えるとき、 ‥‥>>3頁

2、原審の特徴――債務者と裁判所の対応――
(1)、では、この「安全性最優先と徹底した情報開示」という政府の基本理念に対し、今回、GM作物の野外実験の安全性の有無が真正面から問われた日本初の裁判において、本野外実験を「国家的プロジェクト」と位置付ける債務者は、実際、どのような態度を取ったか。
一言で言って、それは政府の基本理念とは正反対の「開発最優先と徹底した情報非開示」であった。その見事なまでに徹底した態度は、今回の原決定(22〜24頁)でも指摘された裁判外においてのみならず、裁判上においても首尾一貫して貫かれた。債権者は、‥‥>>4頁

3、本準備書面の目的
 本裁判における本野外実験の安全性・問題点は多岐にわたるため(疎甲25の争点一覧表参照)、原決定の判断にも様々な問題点を残したが、本書面においては、このうち、核心的な問題点について原審の「決定的な誤り」に絞って指摘する。
すなわち、債権者は、主として、
@.前述した通り、不本意にも債権者に一度も反論の機会を与えられなかった債務者からの本格的な情報開示(準備書面(4)と疎乙108〜116)に関して、抗告審において、初めてその問題点を指摘した上で正しい事実認定を求め、
A.なおかつ、従来型の事故の延長線ではなく、あくまでも「予見不可能性と回復不可能性」を本質とするGM事故固有の特質を踏まえた、GM作物の野外実験の安全性を真に担保する判断基準の定立を主張する。

第2、二重の袋がけの措置に対する事実認定と判断の誤り
1、問題の所在――重大な前提問題――
交雑の可能性があるかどうかという論点について、その大前提として「イネの花粉の交雑能力の時間がどれくらいか」という点が極めて重要となる。
この点、原決定は、主に乙112及び113を理由に、「長くとも5分程度で消滅」するとし、同じく乙112、及び113等を理由に、債権者の「イネ花粉の生存限界時間が50時間である」という主張を退けた(17頁)。
 しかし、これは「イネの花粉の交雑能力の時間」の事実認定として明らかに誤っている。なぜなら、‥‥>>7頁

2、二重の袋がけの措置の安全性について
(1)、従って、二重の袋がけの措置について、交雑の可能性を検討するにあたっては、大前提の問題である「イネの花粉の交雑能力の時間」について、「50時間」という見解を踏まえなければならない。なぜなら ‥‥>>8頁

第3、ディフェンシン耐性菌に対する事実認定と判断の誤り
1、問題の所在

 債権者は、申立ての最初から終始一貫、次の危険性を指摘した(申立書18頁。準備書面(2)11頁以下。同(5)4頁以下。同(6)3頁以下。同(7)9頁以下)。
@. 本実験の圃場の田の水中に、ディフェンシン耐性菌が容易に出現する可能性があること。
A. @で出現したディフェンシン耐性菌が圃場の外部に容易に流出・伝播するおそれがあること。

2、原審の判断とその誤り
‥‥
 しかし、これは、ディフェンシン耐性菌の出現を報告した疎甲82及び83の各論文(以下、本論文という)の誤読、そして、本論文や本野外実験におけるディフェンシン耐性菌の出現の可能性等を解説した金川陳述書(疎甲19、80、91)の誤読に基づく誤った事実認定である。債権者は、近く、この点を詳しく明らかにした研究者の意見書を提出する。
‥‥>>10頁

3、ディフェンシンの土壌微生物への影響について
‥‥
(2)、しかし、既に、金川陳述書(3)が詳細に論証した通り、本GMイネは「過去にはあり得なかった人工的な遺伝子の組み合わせを行うことにより、常時多量のディフェンシンを生産するように加工したイネ」(6頁7行目以下)であって、「ディフェンシンが必要に応じて生産される」カラシナとは全く状況が異なる。従って、このように、単なる過去の経験から、過去にあり得なかった人工的な本GMイネの危険性を推定することは誤りと言わなければならない(6〜7頁。疎甲91)。
‥‥>>14頁

4、ディフェンシン耐性菌の圃場からの流出・伝播の危険性について
‥‥
 しかし、ここでもまた、原審は、2で前述した通り、耐性菌を従来の有害化学物質などと同一レベルで考えるという誤りに陥ってしまった。耐性菌はたった1匹出現しただけでも短時間で爆発的に増殖するものであり、従って、ディフェンシン耐性菌の圃場からの流出・伝播についても、ここで問題とすべきなのは、1匹であれ、凡そディフェンシン耐性菌が流出・伝播する可能性があるのかどうかということ、そして、その1匹の耐性菌が数万匹、数億匹に増える可能性があるのかどうかということである。たとえ1匹でもいったん耐性菌が流出・伝播すれば、通常、そこから爆発的な増殖が起こるから危険なのである。これがまた、耐性菌の流出・伝播の危険性を考える上で決定的に重要な点である。 ‥‥>>15頁

第4、本野外実験の危険性の判断基準について
‥‥
しかし、最大の問題は、原審が、本野外実験の危険性を、本来「予見不可能性と回復不可能性」を本質とするGM事故特有の問題として正面から受け止めようとせず、単に、伝統的な公害、有害化学物質の事故の延長線上でしか考えていないことである。 ‥‥>>17頁

第5、本野外実験の第1種使用規程の承認手続について
‥‥
 しかし、以下に述べる通り、本野外実験の第1種使用規程の承認手続に関しては、手続的に重大な違法があるのみならず、本野外実験が遵守したとされるわが国のカルタヘナ法及びそれに基づく告示自体も、イネなどの栽培植物の安全性確保の点からみたとき、全く不十分と言わざるを得ない。
‥‥>>22頁

第6、最後に――問題点の一覧表の提出と技術説明会の早期開催――
1、本裁判の新しさと困難さ

 本裁判は、次の諸点で、一般民事事件にはない新しさと困難さを有している。 ‥‥>>23頁




9.5 審理促進上申書 裁判所の早期審理・判断の要請を上申。

‥‥とくに,ディフェンシンは,ヒトも含めすべての動植物が保有している抗菌活性たんぱく質ですので,その耐性菌の出現は,生物多様性を破壊し,すべての動植物に重大な脅威を与えることとなります。‥‥>>1頁




9.13 準備書面9 1、原審裁判所の予測と注文について
 原審裁判所は、原決定の中で、債務者が主張した二重の交雑防止策について、「債務者の予定する前記飛散防止策により、一応、現在周辺農家において生育中の一般イネとの自然交雑の可能性はほとんどないものと考えられ」と予測し、これを理由に本野外実験を許容した(19頁4行目)。
しかし、実際には、債務者が実行した交雑防止策が「一般イネとの自然交雑の可能性をはらんだ」極めて杜撰なものであることが、現実に本件圃場を見学した天明伸浩氏の報告書(疎甲102)により明々白々となった。‥‥>>2

2、耐性菌問題の重要性について
本野外実験の最も重要な争点は、ディフェンシン耐性菌の出現・流出の問題であるが、ディフェンシン耐性菌に限らず、いわゆる耐性菌問題が、抗生物質の濫用により、現在、最も深刻な問題のひとつであることは、つい最近の朝日新聞の9月5日付記事(疎甲113)、‥‥>>3頁

3、本裁判の国内及び国外での反響
‥‥GMイネの野外実験によるディフェンシン耐性菌の出現・流出という深刻な問題は、国内のみならず、世界的に反響を呼び、本野外実験の実情を知った海外の研究者からも、問題の重要性を述べたEメールが寄せられている。‥‥>>3頁

4、予防原則について
 こうした、GM技術により、いまだかつてなかったディフェンシンの常時大量の産出とこれに対するディフェンシン耐性菌の出現の可能性という事態に対しては、従来の事故の延長線上では捉え切れないものがあり、ここに、こうした新しい事故に対する新しい対応の原則である予防原則が極めて重要になる。‥‥>>4頁




9.20 準備書面10


準備書面11
準備書面10
 本書面は,原決定後の事情をふまえ,本手続きの審理促進とともに,予防原則に基づく裁判所の早期判断について意見を述べるものである。
第1 信義誠実を欠いた相手方の応訴姿勢(民事訴訟法2条)
1 即時抗告の申立て後、既に1ケ月余りが経過した。‥‥>>1頁

第2 予防原則に基づく審理の促進の必要性 
1 抗告人らは,本件野外実験の即時中止を求める根拠や疎明のあり方として,予防原則を主張してきた。 ‥‥>>4



準備書面11
目 次
第1、債権者の抗告審における事実主張・立証の整理
1、主要な証拠について  
2、(a)の争点(二重の袋がけの措置の安全性)と主張・立証について    
3、(b)の争点(ディフェンシン耐性菌の出現の可能性)と主張・立証について   
4、(c)の争点(第1種使用規程の承認手続違反)と主張・立証について  
第2、債権者の抗告審における法的主張の整理
1、債権者の法的主張の射程距離            
2、予防原則のエッセンスと実際の適用         
3、予防原則の具体的内容――とりわけ立証責任の転換――
4、小括            

****************

 本書面は、債権者のこれまでの主張・立証をその骨格に絞って整理したものである。
第1、債権者の抗告審における事実主張・立証の整理
1、主要な証拠について

 債権者が原決定を覆すに足りると考える証拠は、ほぼ次の3つに尽きる。‥‥>>2頁

2、(a)の争点(二重の袋がけの措置の安全性)と主張・立証について
(1)、議論の整理

 問題点を理論面と実際面に分けて, 以下検討する。‥‥>>3頁

3、(b)の争点(ディフェンシン耐性菌の出現の可能性)と主張・立証について
(1)、議論の整理

問題点を理論面と実際面に分けて, 以下検討する。‥‥>>7頁

4、(c)の争点(第1種使用規程の承認手続違反)と主張・立証について
(1)、問題の所在

本件における承認手続違反として看過できない重大な問題とは次の2つである。
‥‥>>11頁

第2、債権者の抗告審における法的主張の整理
1、債権者の法的主張の射程距離
 債権者が本野外実験中止の判断基準と考えている最大の規範は予防原則である。‥‥>>14頁

2、予防原則のエッセンスと実際の適用
(1)、予防原則に関する概括的な解説として、三菱総研の研究ノートがあ
る。‥‥>>15頁

3、予防原則の具体的内容――とりわけ立証責任の転換――
 予防原則の具体的内容については、この間、多くの人たちの手により、その内容が詰められてきた。 ‥‥>>17頁 

9.20 答弁書
9.22 進行に関する上申書 1、債務者の答弁書について
 率直なところ、これがGM作物の専門家集団の書面だとはとても思えません。‥‥>>1頁

2、債権者の基本的立場
 債権者の主張の基本は、既に8月25日提出の準備書面8で言い尽くされており(それを手際良く整理したのが今回提出の準備書面11でして、事実主張について3つの争点、法的主張について、予防原則の適用ということに尽きます)、その後、主張の補足・肉付けはあっても、新たな主張は一度もないし、今後もありません。‥‥>>2頁




9.30 同上 今後の手続の進行および債権者の反論の予告について。

1、 近日中の反論提出
抗告審において、債務者からようやく主張、立証が提出され、これで、我々も債務者の言い分に正面からトドメを刺し、争点に決着をつける態勢が整いました。来週早々には、債権者の反論を提出しますので、今しばらくお待ち下さい。
もっとも、裁判所は、債務者の主張を一読されても、一体どこに問題の核心があるのか、かえって不明瞭になったのはないかと思料いたします。なぜなら、債務者の今回の反論の特徴は債権者の主張を受け止める振りをして実は意図的にこれをずらしているからです。
 そこで、本件の問題点の核心を明瞭にするのに役立つよう、3で、我々の反論のエッセンスを予告・表明しておきます。

2、そのあとの技術説明会開催の要望
 来週早々提出の債権者の反論により、本件の問題点の核心が貴裁判所にもかなり明らかになると思いますが、同時に(この種の専門的事件の常ですが)前提問題や専門知識に関する疑問点、不明点もまた初めて明らかになると思われます。その意味で、争点整理のみならず前提問題・専門知識に関する疑問点、不明点の解明のために、是非とも、技術説明会の早期開催を要望いたします。

3、予告:債務者の主張に対する感想と債権者の反論のエッセンス
 債務者の今回の反論には、次のような特徴が見出せると考えます。
(1)、本件の問題点の核心に対する沈黙
‥‥
(2)、交雑防止について、債務者の極めて重大な本音の表明
‥‥
(3)、ディフェンシン耐性菌について、債務者の支離滅裂な主張
‥‥
(4)、専門家から見た評価
 債務者の主張・立証は、素人の目から見ますと、「発生可能性がないことが科学的に公知であった」(同上)に象徴されるように自信たっぷりで、一見、磐石の構えのように見えるかもしれません。しかし、ひとたび専門家の目を通すと、どうしてこのようなことが言えるのか理解できないくらい《desperately confusing》なものです。‥‥
‥‥>>2頁

9.27 準備書面5
10.4 準備書面12


準備書面13
準備書面12

第1 抗告の趣旨の変更   
抗告の趣旨の2以下を次のとおり変更する。

2 相手方は,刈り取った本件GMイネ、収穫したもみおよび圃場に残された株につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌、乾熱滅菌(160℃で4時間、または180℃で2時間)、加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。

3 相手方は,本件圃場の土壌につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌、乾熱滅菌(160℃で4時間、または180℃で2時間)、加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。

4 相手方は,平成18年4月上旬から6月下旬に予定している本件圃場へのカラシナ由来のディフェンシン遺伝子挿入イネの野外実験栽培をしてはならない。

5 相手方が,2,3につき,その期間内に耐性菌の殺菌処理をしないとき,抗告人らは新潟地方裁判所執行官に相手方の費用で耐性菌の殺菌処理をさせることができる。

第2 申立の趣旨を変更する理由
 1 相手方は,平成17年9月30日,上越記者クラブ等のマスコミに,本年10月3日に本件GMイネを刈り取る予定である旨を発表し,予定どおり,これを実行した。なお,刈り取り作業は,原審決定が明示した市民への情報公開要請や,第1種使用規定承認組換え栽培実験指針(疎甲14号証の1,2)が定める情報公開規定を無視し,一般には公開されず,新聞記者のみの立会いで行われた。 ‥‥>>1頁

第3 申立の趣旨変更の正当性
1 仮処分審理においても,民事訴訟法147条の規定が類推されるとするのが一般であるところ,今回の申立の趣旨の変更は,被保全権利(安全なコメ−安全性の承認されていないGMイネと交雑していないコメ−を食する権利,多様な生物が共存するなかで生活する権利,不用意な耐性菌の発生により健康をおかされることなく健康に生活する権利という人格権)には変更はなく,この権利を保全するための手段を変更するにすぎないものである。 ‥‥>>3頁


準備書面13

1、はじめに

 相手方(以下、債務者という)の準備書面(5)及び書証(乙117〜119)は、長い沈黙の末ようやく提出された抗告審における債務者の初めての反論であるが、その内容たるや、
まず、抗告人(以下、債権者という)が抗告審で明らかにした本野外実験の問題点の核心(準備書面(11))に対して一切口を閉ざした全くの肩透かしのものであり、
その一方で、今回初めて、「科学的に公知」(9頁第6、2)と称するディフェンシン耐性菌問題に関する新たな主張(6〜7頁)を持ち出すに至ったが、それは初歩的な科学的知識のレベルですら誤った杜撰な主張というほかない。 

2、ディフェンシン耐性菌問題に関する債務者の誤り
(1)、まず、債務者は、第4、1(5頁)で、ディフェンシン耐性菌問題に関する債権者の主張を要約しているが、耐性菌の影響に関する(8)から(13)について、債権者はこんな順番で主張をしたことは一度もない。いったいどこでそんな主張がなされているのか、明らかにされたい。
(2)、次に、債務者が「科学的な考察においても生じようがない」(6頁2)と言い切った今回の主張の最大の目玉である「ディフェンシン耐性菌がイネの細胞から外部に出る可能性は存在しない」(6頁3)は、科学的にみて完全に誤ったものである。その誤りを理論面からも、実験面からも余すところなく解明したのが、今回提出した金川意見書(甲125)である。債権者は、この金川意見書で、ディフェンシン耐性菌問題は決着を見たと確信している。

3、 交雑の可能性に関する債務者の主張
 債務者は、本野外実験の問題点のひとつである「交雑の可能性」についても、あれこれ反論をしているが、その中身たるや、
一方で、「イネの花粉の交雑能力の時間」とは、生物学的に見た交雑能力のことか、それとも人工受粉という特定の目的に用いる場合に適切なイネの花粉の寿命のことか(債権者準備書面(11)4頁(a)の争点)という肝心要の核心については、一言も明らかにせず、
他方で、それ以外のことについて、専門家の目から見て「一言で言って、身の入らない、中身の薄い、蒸し返しで、肝心なところには全く触れずじまいの」(生井陳述書(2)6頁。甲124)主張でしかない。
そのことを明らかにするため、受粉生物学の専門家生井兵治氏の陳述書(2)(甲124)を提出する。

4、結語
以上の通り、今回の債務者の主張、立証とこれに対する債権者側の証拠により、次のことが明らかになった。
一方で、債権者が準備書面(11)で明らかにした本野外実験の問題点の核心に対して、債務者には積極的に反論するものが何ひとつないこと、
他方で、今回、債務者が起死回生の一打として持ち出した「科学的に公知」と称する「ディフェンシン耐性菌がイネの細胞から外部に出る可能性は存在しない」という主張は、初歩的な科学的知識のレベルですら誤った、撤回するしかないような杜撰なものであること。
                      以 上

10.4 準備書面6
10.7 準備書面7
10.11 準備書面14 相手方準備書面7に対する反論。

第1 申立の趣旨変更の正当性、合理性
1 相手方の主張

相手方は、請求の趣旨の変更が許されない理由として、本件仮処分の被保全権利は「あくまでも特定の行為の差し止め」であるとし、抗告人らの申立の趣旨の変更が、@請求の基礎に顕著な変更がある、A債務者の防御に過大な負担が発生する、B著しく本件抗告手続きを遅延させる、C変更の申立は疎明提出期限後にされた、C債権者の不当な意図による申立変更権の濫用であるなどと主張し、変更を許さないことに不都合もないと述べている。
しかし、いずれの主張も、未熟な法律論と事実認識の誤りに基づくものである。 ‥‥>>1頁

第2 相手方の反論(5P以下)に対する再反論
‥‥
2 今回の抗告の趣旨変更が被保全権利の変更でないこと、抗告人らが民事保全法24条の解釈について「提案説」ではなく、「目的拘束説」立っていることは準備書面(12)とそこに引用している文献で明らかにしており‥‥
 この一連の経過を通覧すれば、相手方は、抗告審の審理を出来る限り遅延させ、書面提出時の9月27日には10月3日の刈り取りを既に決定し、その上で書面には「債権者の求める技術説明会の開催には貴庁の指示があれば、適宜応じる所存である」など実体審理に積極的な姿勢を装い、ひたすら抗告審の審理を回避しようとしていたと指摘されても、弁解できまい。このような相手方の応訴姿勢は、科学者と市民の溝を深めるだけであり、甲24号証で提出した池内了氏の指摘する「ヤバンな科学」そのものである。
 本件が、仮にこのまま終わるとすれば、多数の良心的な科学者が、自らの不利益も省みず、国家的事業の危険性に異議を唱えたことともに、公共機関に従事する科学者が手続き的不正義の限りを尽くした事例として、記憶にとどめられるべきである。
‥‥>>5頁




10.12 裁判所の判断(抗告棄却)


三審(最高裁判所)
申立人(債権者) 相手方(債務者)
日付 題名 内 容 日付 題名 内 容
10.18 特別抗告申立書
抗告許可申立書
東京高等裁判所が平成17年10月12日に下した抗告棄却の決定に対する異議申立。



11.4
特別抗告申立理由書

別紙1〜3
別紙4同5同6別紙7

【注釈】
別紙1〜3は生物学文献。
別紙4〜8は二審の判断に対する研究者の感想。
目 次
1、申立人が特別抗告に及んだ理由            
2、憲法違反の意味について                
3、はじめに――申立人にとって予想外の出来事――     
4、本裁判の主題                    
5、本裁判の争点解明と抗告審の審理経過         
6、本GMイネと一般イネと交雑の可能性           
7、ディフェンシン耐性菌の出現とその影響         
8、野外実験承認のための申請段階における重大な手続違反  
9、判断基準としての「予防原則」の必要性         
10、抗告の趣旨変更の可否について 15頁
11、終わりに――未だ生まれざる者たちに対する義務の履行――



抗告理由は以下のとおりである。

1、申立人が特別抗告に及んだ理由
 言うまでもなく、申立人が本件で最も危惧してやまないことは、ディフェンシン耐性菌の出現・流出による人類その他動植物に及ぼす重大かつ深刻な影響(健康被害、生態系の破壊)に対し、このような重大な侵害を受けずに健康で文化的な生活を営む権利が憲法上保障されているにも関わらず(憲法25条・13条)、学問研究の自由の名の下に、憲法上も最も尊重されて然るべきこの生存権が回復不可能な形で損なわれてしまうことである。
こうした危惧が決して申立人の「杞憂」でないことは、いったん発生するや、国内において、あれほど徹底した予防対策を繰り返してきたにも関わらず、少しも続発を食い止めることができないばかりか、今や世界的流行の懸念さえ現実化してきた(ディフェンシン耐性菌と同様の生物災害である)鳥インフルエンザの猛威を見れば明らかである。 ‥‥>>2頁

2、憲法違反の意味について
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」を定めた憲法25条は、裁判上これまで、主として「最低限度の生活を」実現するための経済的な保障をめぐって問題になったが、しかし、生存権はもともとそのような経済的、財産的側面だけにとどまるものではなかった。 ‥‥>>3頁

3、はじめに――申立人にとって予想外の出来事――
 正直なところ、我々申立人らやその代理人ですら全く予想していなかった事態が本仮処分裁判を通じて起きた。それは、「GM技術に従事する科学者の95%は開発側に立っている」(甲58のNHK-BS番組のラスト)現状では、号令一下で70通もの研究者の署名をかき集めることは絶大な力を持つ相手方なら不思議でも何でもないことであるが、これとは好対照をなす、新潟県の全く無名の市民である申立人らにとって、それまで何のご縁もなく、名前すら知らなかった科学者・研究者たちから、しかも日本全国のみならず世界中から、本野外実験の最大の危険性(ディフェンシン耐性菌出現の危険性)について、警鐘を鳴らす声が次から次へと届けられたことである(甲86〜92。94。同118〜121)。なぜ、彼らは、見も知らない我々の裁判のために、一文の得にもならないどころか我が身の研究に不利益・障害が及ぶであろうことを承知でその危険を顧みず、敢えて今回の国家的プロジェクトに異議の声をあげたのだろうか― ‥‥>>4頁

4、本裁判の主題
本裁判の主題は単純明快である。生産者または消費者である申立人らが本野外実験に対し抱く根本的な疑問とは以下のように要約することができる。
本野外実験で栽培される、「ディフェンシン」を常時大量に産出する本GMイネについて、‥‥>>5頁

5、本裁判の争点解明と原審の審理経過
(1)、前述の主題をめぐって、申立人は、原審の冒頭から、争点を4つに絞って、次の通り提示した(準備書面8・11)。 ‥‥>>6頁

6、本GMイネと一般イネと交雑の可能性
(1)、問題の所在
イネの自然交雑の可能性について判断する上で、「イネの花粉の交雑能力の時間はどれくらいか」という前提問題の判断が決定的に重要であった。なぜなら、 ‥‥>>7頁

7、ディフェンシン耐性菌の出現とその影響
 ディフェンシン耐性菌については、時期的に次の2つの争点が存在する。
(1)、一審以来の論点に関する問題の所在 ‥‥>>9頁

8、野外実験承認のための申請段階における重大な手続違反
(1)、コマツナ由来の導入遺伝子を、カラシナ由来と偽って本実験承認の申請を行なった点 ‥‥>>12頁

9、判断基準としての「予防原則」の必要性
(1)、申立人は、伝統的な事故の枠内に収まり切れない予見不可能性と回復不可能性を本質とするGM事故の特質にかんがみ、本GMイネの野外実験の危険性を適切に判断するためにはその判断基準として、既にGM食品の安全性や生物多様性の保全に関する原則として確立している予防原則を採用すべきであると、すなわち「新しい酒は新しい革袋に盛られなければならない」と一審以来首尾一貫して主張してきた。
(2)、しかるに、原審決定は、これに対する判断を一切明らかにすることなく、なおかつ結果的に予防原則の適用を真っ向から否定する態度に出た。なぜなら、‥‥>>14頁

10、抗告の趣旨変更の可否について
(1)、原審において、申立人が8月25日に抗告理由を明らかにしたにもかかわらず、これに対し、相手方が、ズルズルと1ヶ月以上何の反論も提出せず、裁判所もまた、申立人の再三再四の審理促進の上申にもかかわらず、相手方の故意としか言いようのない訴訟遅延行為を極めて寛大な態度で容認したため、その結果、原審裁判所の判断が熟さないうちに、10月3日、本GMイネの刈り取りが実行されてしまった。そこで、申立人は ‥‥>>14頁

11、終わりに――未だ生まれざる者たちに対する義務の履行――
 申立人らは、本書面の冒頭で、《本件では、「人間の歴史上前例のない技術上の力業」である遺伝子組換え技術という人為的な操作により、‥‥人間社会の根幹をなす最重要な生存権と学問研究の自由という人権相互の最も深刻な衝突の調整が問われて》いると書いた(4頁)。
しかし、GM事故の特質のひとつである「晩発生」 に思いを致したとき、本件の最大の被害者は実は申立人たちではないだろうと思わざるを得ない。本件の最大の被害者は、恐らく ‥‥>>17頁




11.10 特別抗告申立理由補充書 1 本件特別抗告は、原審裁判所が、民事保全法7条が準用する民事訴訟法143条の解釈を誤り、抗告人らの適正な裁判を受ける権利を侵害したので、憲法第32条に違反するものであり、また国民の幸福追求権を保障した憲法第13条にも違反するものであることをも、理由として補充追加主張するものである。 ‥‥>>1頁

2006.
1.16
裁判所の判断(抗告棄却)


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