禁断の科学裁判
 
−−−ナウシカの腐海の森は防げるだろうか−−−

用語解説

日本語:アイウエオ順
用 語 解 説 備考
回復不可能性 「予見不可能性」と並んで、遺伝子組換え事故に固有の特質のこと。「不可逆性」とも言う。
あとになって、GM作物が有害であるとわかっても、それを回収し、環境を元にもどすことは不可能であるということ。
その理由は、まず、化学物質と違い、生命体であるため増殖することにある。

また、仮にGMイネの1品種が有害と判明した場合でも、見た目だけでは、無害なものと区別がつかない。栽培により、花粉が飛んで、有害遺伝子を撒き散らすことになるが、花粉は肉眼では見えないので、防ぎようがない。また、実を小鳥や渡り鳥が食べれば遠くへ運ばれ糞となって落とされる。外来の動植物が、とんでもない害を与えることは、セイタカアワダチソウ、アメリカザリガニ、オオクチバスなど、多くの例がある。これらは、見た目で区別できるが、それでも、侵入した動植物を排除することが不可能である。ましてや、見た目が同じ植物があって、しかも、その植物が私たちの生活に必須のものであれば、排除は到底できない。

さらに、耐性病原菌の出現という問題を生じた場合、相手(耐性菌)は肉眼で見えず、なおかつ短時間で増殖するので、その流出・移動を防ぐことは実際上不可能である。その結果、短時間で広い範囲に伝播してしまい、回収は不可能となる。


生物の1つの系統をいう。同じ親から出たもので、遺伝的性質が親と同じもの。


耐性 薬物などに対して生物が示す抵抗性のこと。


ターミネーター 遺伝子の読み終わりを示す部分のこと。目的とする遺伝子をはたらかせるには、その遺伝子の前にプロモーターが必要で、その後にターミナーターが必要になる。つまり、遺伝子組換えでは、目的遺伝子の前にプロモーターを連結し、後にターミナーターを連結して、これらをセットにして細胞に導入する。


抵抗性 生体が有害な環境、薬剤作用、微生物の進入などに対して抵抗力を持つこと。


ディフェンシン タンパク質の一種で、動植物が生産する。病原菌の活動を抑える作用があり、感染防御に重要な役割を持っている。生体は外敵に対する防御システムを数多く発達させているが、ディフェンシンはその防衛ラインの最前線で戦っている防御物質である。


ヒトのディフェンシン ヒトが生産するディフェンシンで、病原菌から身を守るために重要な役割を果たしていることが、最近の研究で明らかになりつつある。
エイズウイルスに感染したにもかかわらず、何年たっても発症しない「長期未発症者」と呼ばれる人たちがいるが、2002年になり、長期未発症者の体内では、普通の感染者では生産されなくなるディフェンシンの一種であるα-ディフェンシンが作られ続けており、これがエイズウイルスの活動を半分程度に抑えていることがわかった。ディフェンシンは細菌だけでなくエイズウイルスに対してもその名に恥じないディフェンダーとなっている。


ディフェンシン遺伝子 ディフェンシンを生産するための設計図としての役割をもつ遺伝子のこと。


ディフェンシン耐性菌 生物が病原微生物の攻撃を受けたとき、ディフェンシンを分泌して細菌の細胞膜を溶解し殺菌するが、その攻撃を受けるうちに細胞膜を変異させて攻撃を無力にしてしまうようになった細菌のこと。
ザックリ言えば、ディフェンシンに攻撃されても、平気になってしまった菌のこと。


プロモーター 遺伝子(タンパク質の設計図)の発現制御(どういう場合に設計図を製造部門へ出すかを決める)を行う部分のことで、そのタンパク質をいつ作るのかを決める。

遺伝子組換えでは、そのタンパク質を常に多量に作るようにという命令を出す(導入遺伝子を強力に発現させる)プロモーターを使うことが多い。本件の野外実験も同様である。


マーカー遺伝子 目的遺伝子がうまく導入された細胞だけを選び出せるようにするための遺伝子のこと。
なぜ、わざわざこのような遺伝子を挿入するかというと、それは、現在の技術では、目的遺伝子の導入がうまくいく確率が数百万分の一以下でしかないため、うまく導入されたものだけを選び出す必要があるからである。

これを選び出す方法として、うまく導入されたものは生育し、失敗したのは生育しないように、これまで、抗生物質に対して抵抗力をもつ酵素を作る遺伝子を入れ、なおかつ抗生物質を使って生育の有無を判断するという方法を行ってきた。


予見不可能性 「回復不可能性」と並んで、遺伝子組換え事故に固有の特質のこと。
遺伝子組換えは、他の生物から切り出した特定の遺伝子(タンパク質設計図)を細胞に挿入して、その遺伝子に基づくタンパク質を作らせることが目的である。つまり、新しい遺伝子の導入で、細胞に1つ余分の新しい仕事を命じることになる。このために、何かの仕事が犠牲になっているかもしれないが、それが、生物体にどう影響しているのかが、わからない。

また、遺伝子の調節機構はほとんどが未解明のため、新しい遺伝子の導入で遺伝子の調節機構がどういう影響を受けるか予想ができない。通常の生育には問題がなくても、何かがきっかけで、毒成分を作るかも知れない。また、生物体の中で、遺伝子が組み変わったりしたときに、予想外の事態が起こるかもしれない。

この点(遺伝子組み替えの結果に対して我々が予見できない)で、これまでの科学的、技術的な行為と大いに異なる。その結果、こうした遺伝子組み替えによる事故に対しても、我々は予見できないという条件の下にある。


予防原則 危険性に関して、科学的な知見が十分に得られていない場合に、将来取り返しのつかない事態が発生する恐れがあるものについて、前もって予防的な措置を取っていこうとする考え方のことをいう(疎甲108の三菱総研の研究レポート98頁「1、はじめに」参照)。

1)、そのエッセンスを一言で言えば、「疑わしきは罰する」である(疎甲110の放送大学「集団と環境の生物学」第15回講義参照)。
ところで、これは、これまで「疑わしきは罰せず」を原則と信じてきた者にとって躓きの石である。しかし、すべて原則は特定の文脈の下でのみ妥当するのであって、これを離れて普遍性を持つことはない。それは、かつて、封建時代の身分的桎梏を解放するために意味を持った「契約自由の原則」が、経済的強者と弱者の間では妥当性を持ち得ず、かえってこれを否定すること(強行法規の登場)が、正義公平に合致するのと同じである(過失責任の原則から無過失責任への修正も同様である)。

2)、では、なぜ、ここで、こうした逆転が生じたのか。それは、現代文明が、これまで地球上にはなかった事故に直面することになったからである。では、それはどういう点で、かつてない新しさ、未知があるのだろうか。これについて、疎甲108の三菱総研の研究レポートは、以下の4つの要素を挙げている(99頁)。
1、 リスクの不確実性(申立書11頁の予見不可能性)
2、 不可逆性(申立書11頁の回復不可能性)
3、 晩発生(病原体やアスベスト等を体内に取り込んでから実際の被害が発生するまでに時間がかかること。疎甲2の153頁下段参照)
4、 越境性(リスク源が国境を超えて移動すること)
つまり、このような新たな要素をはらんだ事故については、もはや従来の事故を想定したリスク管理では対応できないため、そこで、この新しい事態に即応した新しい対応を発見するしかなかった。そこで見出されたのが、この予防原則=「疑わしきは罰する」である。

そして、この新たな要素をはらんだ事故が発生する分野として、疎甲108の三菱総研の研究レポートは、以下の分野を挙げている(99頁)。
−化学物質(環境中の化学物質、温暖化ガス)
−食品(BSE、ホルモン牛肉)
−技術(遺伝子組み替え技術、クローン技術)
−生態系(絶滅危機種、捕鯨)
−電磁波、放射線

3)、そして、この予防原則は、国際関係では既に数多くの条約、協定に適用されており、疎甲108の三菱総研の研究レポートは、その具体例を紹介している(100頁)。その中には、本裁判でその適用が問題となる次の条約、議定書も含まれている。
生物多様性条約(1993年)
カルタヘナ議定書(2000年)

のみならず、この予防原則が、既に国内の食品安全に関する原則として登場していることは、去る8月29日放送のクローズアップ現代「食の安全をどう伝えるか」の中で、先月8月12日、わが国の食品安全委員会が、予防原則に基づいて、「魚介類等に含まれるメチル水銀に関する食品健康影響評価について」、2年前の基準より厳しい基準を明らかにしたことが取り上げられ、放送された(近日中に、その映像を書証として提出予定)。
これは、魚介類等に含まれるメチル水銀が胎児に何等かの影響を与える恐れがあると判断され、そこで、その影響がたとえわずかであっても、それが疑われる限り、予防原則の立場に立って、それを未然に防ぐ必要があるとして、食品健康影響評価について見直しを行なったものである。
食品安全委員会の解説

また、こうした予防原則の考え方は、本裁判でその適用が問題となる生物多様性条約の分野では、コモン・センスともいうべきもので、放送大学の生態学の授業などでも、生物多様性保護のための確立した原則として取り上げられている(疎甲110の放送大学「集団と環境の生物学」第14回、第15回講義参照)。

4)、最後に、予防原則の具体的内容であるが、この間、多くの人たちの手により、その内容が詰められてきた。そのひとつの成果が、EUが2000年に発表した「予防原則に関する欧州委員会からのコミュニケーション」である。

この中で、とりわけ注目に値することは、リスクに関する立証責任に言及していることである(疎甲108の三菱総研の研究レポート101頁参照)。

もっとも、その責任の内容は「適切な関係者に課す必要がある」とやや曖昧であるが、その後、2004年11月22日にEUが発表した Questions and Answers on REACH Part II(ただし、これは化学物質の分野である)の中では、立証責任について、次のように立場を明確にした。
「 現在、市場に出ている化学物質の危険性を証明しているのはEU当局であるが、REACHでは化学物質のデータを収集し、テストを行い、安全性を証明する責任は化学物質を製造する企業側に移行する。
 認可において、"使用によるリスクが適切に管理されること、又は、社会経済的便益がそのリスクに勝ることを証明する責任は申請者にある"と述べている。(Introduction to the proposal 1.7 Authorisation Page 16)すなわち、安全性の立証責任は当局側から企業側に移行された。」(疎甲109「EU 新化学物質政策REACH の紹介」より)

つまり、予防原則の内容を吟味していけば、その適用はおのずと立証責任の問題にまで行かざるを得ず、そして、その解決の仕方もまた、リスクの不確実性や不可逆性などの新しい事態に相応しく、証拠を独占し開発する者の側にあるとするしかないことは自明である。現に、スウェーデンや英国では、既にこれを明記している(疎甲44「予防原則」242頁)。



英語:ABC順(準備中)
用語 解説 備考





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