EU 新化学物質政策
REACH の紹介
安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
更新日:2005年7月26日


EU 化学物質政策の探索ガイド
REACH
何が起きたのか、なぜ?

インガー・ショーリング 編
グンナール・リンド 著
安間 武 訳


   第1部:化学物質 (pdf)
   第2部:政策 (pdf)
   第3部:背景 (pdf)



(2005/08/31)更新
ChemSec 報告書
REACHの中で
我々が必要とすること


安間 武 訳

H&M(衣類、化粧品販売業)
Boots/Marks & Spencer(小売業)
ETUC(欧州労働組合連合)
EUREAU(欧州上下水道組合連合)
NCC (建設業)
EURO COOP (欧州消費者共同組合連合)
Electrolux (台所設備、掃除、屋外用機器)


 内 容

  1. REACH とは何か?
     ・REACH の概要
     ・REACH の特徴
     ・REACH の経緯

  2. なぜ新たな EU 化学物質政策が必要なのか?
     ・現行システムの問題点

  3. EU 新化学物質政策 REACH
     ・REACH 2003年10月29日最終提案
     ・REACH 2003年5月オリジナル提案
     ・REACH Q&A / 実務者向け指針 (2005/04/07)追加

  4. インターネット・コンサルテーションと各国のコメント
     ・インターネット・コンサルテーション概要
     ・各国政府、機関、団体、等からのコメント
     ・スウェーデン国立化学検査院のコメント概要
     ・ノルウェー政府のコメント概要
     ・イギリス政府のコメント概要
     ・ドイツ政府、ドイツ化学工業会、及び鉱業、
      化学、エネルギー産業連合の共同コメント概要

     ・欧州環境4団体共同コメント概要(Greenpeace, European Environmental Bureau, WWF, Friends of the earth)
     ・アメリカ政府のコメント概要
     ・カナダ政府のコメント概要
     ・日本政府/経済産業省のスタンスとコメント概要

  5. インターネット・コンサルテーションの主要な論点
     ・システムの範囲
     ・法的確実性
     ・コスト
     ・事務手続きの煩雑性/欧州化学品機構の権限
     ・化学物質についての情報に対する機密と権利
     ・代替
     ・動物テスト
     ・影響評価と事務手続き
     ・REACH で採用されること (まとめ)
     ・予想されるコストと利益

  6. EUのREACH実施へ向けての動き (2005/07/27)追加
     ・REACH 実施プロジェクト(RIPs)
     ・産業界によるビジネス影響評価(KPMG 調査)
     ・実行可能性検証プロジェクト(SPORT プロジェクト)

  7. REACH と予防原則
     ・予防原則の引用
     ・EU の Q&A の中での予防原則の解説
     ・どのように適用されているか
     ・REACH には予防原則の基本的要素が全て含まれている
     ・REACH における予防原則に関連するノルウェーのコメント(参考)
     ・REACH、白書(COM (2001) 88)、及び、EC条約での予防原則引用

  8. アメリカ政府・産業界及び研究センター・NGOs の動き
     ・米 EHP 2003年11月号記事 『化学の安全性を求めて手を伸ばす』 からの抜粋
     ・アメリカの研究センター/NGOs の提案

  9. ヨーロッパでの REACH 推進
     ・欧州議会内会派 グリーンズ/欧州自由連合
     ・国際化学物質事務局(ChemSec)

  10. 化学物質汚染のない地球を求める東京宣言
     ・化学物質汚染のない地球を求める東京宣言推進実行委員会

  11. REACH 関連資料

1. REACH とは何か?
  REACH は、予防原則をベースとした、人の健康と環境を化学物質の危険から守るための統合的な化学物質政策である

REACH の概要
  1. EU によれば、REACH の2つの重要な狙いは、人間の健康と環境を化学物質の危険から保護すること、及び、EU の化学産業の競争力を強化することであるとしているが、その本質は、予防原則をベースとした、人の健康と環境を化学物質の危険から守るための統合的な化学 物質政策であると考えられる。
  2. 1998年の環境大臣による欧州連合(EU)理事会での検討の結果、新たな化学物質政策が必要であるとして、EU理事会は欧州委員会にその提案を要請した。
  3. 欧州委員会はこれに応えて、 『将来の化学物質政策のための戦略に関する白書  (The White Paper on a strategy for a future chemicals policy / Brussels, 27.2.2001 COM(2001) 88 final))』 を2001年2月27日に発表し、新たな法規制を作るためのプロセスが決定された。
  4. この白書が提案した政策は REACH という略称で知られるようになり、欧州欧州委員会は この白書をもとに新化学物質規制案 (REACH) をドラフトとしてまとめ、2003年5月15日から7月10日まで、インターネット・コンサルテーションを実施した。
    Press Release / Brussels, 7 May 2003 - Commission publishes draft new Chemicals Legislation for consultation
    Internet Consultation on Draft Chemicals Legislation
    Contributions to thePublic Consultation on REACH
  5. 欧州委員会はインターネット・コンサルテーションで得られたコメントに基づき、2003年10月29日に最終提案 (The New EU Chemicals Legislation - REACH Proposed Final Documents / COM 2003 0644 (03)) を発表した。この最終提案は欧州議会及び理事会に諮られ、2006年以降に立法化されると言われている。
  6. REACHRegistration, Evaluation, and Authorization of CHemicals (化学物質の登録、評価、認可) の略称である。
  7. 企業は扱う物質 ( 1 トン以上) の固有の特性と危険性に関する情報、用途、及び初期リスク評価 (製造量 10 トン以上の場合) をまとめ、登録書類一式を提出する登録 (Registration) が求められる。企業の製品情報についての責任と発生するコストは企業側に求められる。
  8. 人間の健康及び環境に対し大きなリスクを及ぼす可能性がある物質は評価 (Evaluation) の対象となる。評価は加盟各国当局の持ち回りで実施される。書類審査と対象物質の 2 種類の評価がある。
  9. 非常に高い懸念がある全ての物質は認可 (Authorization) の対象となる。これらの化学物質の中には、発がん性物質、変異原性(変異原性)物質、生殖毒性物質、及び難分解性で環境中に蓄積する化学物質が含まれる。認可は当該物質の個々の用途に対して適用される。
  10. 認可は、当該物質の使用が適切に管理される、あるいは社会経済的な便益がリスクよりも重要であると企業が証明できた場合にのみ、与えられる。後者の場合には代替物質(substitution)の可能性の検討が推奨される。
  11. 社会経済的要素を十分考慮したうえで、許容できないリスクを及ぼす物質は制限 (Restriction) される。制限には、特定製品の使用禁止、消費者の使用禁止、あるいは完全な禁止などがある。
■REACH の特徴
  1. REACH の根底にあるのは予防原則である。白書及び REACH 最終案では予防原則の適用が明示的に引用された。
  2. すでに市場にある既存化学物質についても REACH の対象とし、今後市場に出る新規化学物質と同一の取り扱いとする。
  3. 安全性の立証責任は従来の当局(国)から企業側に移った。
  4. 危険性のより少ない化学物質が入手可能な場合には、それに代替するこを推奨する。
  5. EU 諸国と非 EU 諸国を化学物質に関し等しい扱いをする。
  6. 他の国際的な化学物質関連条約と整合をとる。 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約の概要)、WTO の政策、OECED 化学物質テスト基準、国連の化学物質の分類と表示のための世界調和システム (GHSとは)など。
  7. ステークホールダーの参加、民主的で透明な手続き、情報の公開を実施する。 ( 白書の検討、REACH ドラフト作成のプロセス前及び最中に加盟諸国、非加盟諸国、産業界、及び非政府機関(NGO)と公式、非公式に広範な情報交換が行われ、インターネット・コンサルテーションが実施され、コメントが反映された。)
■REACH の経緯
 Background to the new Chemicals Strategy 及び
 REACH 最終提案書 Vol.1 Results of public consultations and impact assessments によれば:

  1. 1998年4月、イギリスのチェスターで開催された非公式な欧州連合環境理事会(Environment Council)で、化学物質に関する情報の欠如と化学物質に関する EU の規制の運用についての懸念が提起された。
  2. これを受けて、欧州委員会は化学物質の分野における EU の政策を見直すことを決定した。
  3. 欧州における4つの主要な法律文書(下記)に関する報告書が1998年11月に完成した。[SEC (1998) 1986 final]
     ・危険物質指令(Dangerous Substances Directive (67/548/EEC))
     ・危険調合剤指令(Dangerous Preparations Directive (88/379/EEC))
     ・既存物質規制(Existing Substances Regulation (73/93/EC))
     ・制限指令(Limitations Directive (76/769/EEC))
  4. この報告書は1999年2月22日に開催された関係者のブレーンス・トーミングで検討された。(WRC Report Ret EU 47/9)
  5. これらをもとに1999年6月26日、環境理事会で結論が合意された。(Commission's White Paper - Strategy for a Future Chemical Policy - Council Conclusion に経緯が示されている)
  6. これらの結論に基づき理事会は欧州委員会に対し、化学物質に関する新たな戦略の提案を2000年末までに提出するよう要請した。
  7. 欧州委員会はこれに応えて 『将来の化学物質政策のための戦略に関する白書 2001年 (The White Paper on a strategy for a future chemicals policy COM(2001))』 を作成して提出、2001年2月13日に採択された。
  8. この白書は全32ページからなり、その中で、キーエレメントとして REACH が記述されている。
  9. この白書は、欧州委員会の下記2つのコミュニケションを考慮に入れた。
     ・予防原則  COMMUNICATION FROM THE COMMISSION on the Precautionary Principle (COM 2000/1)予防原則に関するECコミュニケーション COM 2000/1 (当研究会訳)
     ・化学産業の競争力 Competitiveness of the Chemical Industry, COM (1996) 187
  10. この白書は欧州委員会の環境委員及び企業委員の共同責任の下に作られた。
  11. 下記2つの関係者会議(Stakeholders' Conference)が開催され、環境委員バルストロームと企業委員リーカネンが双方の会議の開会演説を行った。
     ・2001年4月2日、白書に関する関係者会議(Stakeholders' Conference
      (日本からの参加者:JAPAN CHEMICAL INDUSTRY ASSOCIATION (JCIA) Mr. Yukata HAYAMI)
     ・2002年5月21日、新化学物質政策のビジネス・インパクトに関する関係者会議(Stakeholders' Conference
  12. 環境委員バルストロームは上記 ”白書に関する関係者会議” の開会演説の締めくくりで次のように述べた。
    「皆さんのこの会議での議論は、この白書を新たな規制案に展開する時に役に立つでしょう。皆さんの相互理解と協力があれば、白書の中で示されている厳しい期限を守ることができるでしょう。私たちは新たな規制案を2005年以前に発効させねばなりません。そして、その後12年以内にこの規制を完全に機能させ、目的を達成させねばなりません。是非成功させましょう。」
  13. 白書が発行された後、理事会及び欧州議会の双方は、化学物質の危険性、リスク、及びリスク削減方法に関する情報入手に関し、産業側により大きな責任を求める効果的なメカニズムと手順を開発することに賛意を示した。
  14. 産業界は新たな化学物質規制を作ることを歓迎したが、その競争力に影響を与えることについて懸念を示した。
  15. 環境団体及び消費者団体は、新たな化学物質規制を作ることを強く支持した。
  16. 欧州委員会は、新化学物質規制案 (REACH) の作成に着手し、そのドラフトが2003年5月にインターネット・コンサルテーションにかけられた。
    Press Release-Commission publishes draft new Chemicals Legislation for consultation
    REACH Regulation - Public Consultation
    Contributions to thePublic Consultation on REACH
  17. EU はインターネット・コンサルテーションで得られたコメントに基づき、2003年10月29日に最終提案 (The New EU Chemicals Legislation - REACH Proposed Final Documents / COM 2003 0644 (03)) を発表した。この最終提案は欧州議会及び理事会に諮られ、2006年以降に立法化されると言われている。

2. なぜ新たな EU 化学物質政策が必要なのか?
  (EU 新化学物質政策 REACH Q&A による)

■現行システムの問題点
  1. 現行化学物質の法的枠組みは不十分。人間の健康と環境に与える化学物質の影響に関し十分な情報を生み出さない。
  2. 1981年以降の”新規”化学物質は市場に出す前にテストをすることが要求されるが、1981年以前に市場に出された約 100,000種あるといわれる ”既存” 化学物質にはそのような規定はない。
  3. リスクの存在が分かっていても、リスク評価を行い、リスク管理措置をとるのに時間がかかる。
  4. 大 量に製造される ”既存” 物質に関する情報を要求する欧州委員会規制(Commission Regulation)があるが、どの物質が検証されるべきかを決定するのは各国当局の手に委ねられており、実施も各国当局自身が行うことを求められる。 手続きに時間がかかり煩雑である。
  5. ”新規” 化学物質は、年間製造量が 10 kg以上の場合、申告とテストが求められ、製造量が 1 トンを超える場合にはさらに詳細なテストが求められる。このことは研究開発の足かせとなり、革新を抑えることとなる。テストが行われていない”既存” の 化学物質を使い続けることが安易であり安価であるので、それを選択させることとなる。1981年以来、導入された化学物質の数は約 3,000である。
  6. 現行のシステムは、研究と革新を阻害し、 EU の化学産業界が域外競争相手国から遅れをとる原因となる。

3. EU 新化学物質政策 REACH
 The New EU Chemicals Legislation - REACH Proposed Final Documents / COM 2003 0644 (03)

■REACH 2003年10月29日最終提案
 EU 新化学物質政策 REACH 最終提案は、全6巻、全文1,328ページに及ぶ膨大なドキュメントからなるが、EU では”解説書”を含む説明用の資料をいくつか用意している。
 ・The New EU Chemicals Legislation - REACH Proposed Final Documents / COM 2003 0644 (03) (原文)
 ・その他の REACH 関連 EU 資料 (一部当研究会訳)

■REACH 2003年5月オリジナル提案
 2003年5月にインターネット・コンサルテーションに付された REACH オリジナル案 (Vol. 1〜7) のうち、Vol. 1 の翻訳を経済産業省 (独立行政法人製品評価技術基盤機構) が行っている。
 REACH の概要を把握するためには、このオリジナル提案 Vol. 1 の日本語訳で十分であるが、 REACH 最終案は、オリジナル提案から、かなり変更されているので注意が必要である。条項番号も変更されている。
 ・EUの新化学品規制案の仮訳掲載について (経済産業省(独立行政法人製品評価技術基盤機構)
 ・REACH Regulation - Public Consultation (原文)

■ REACH Q&A / 実務者向け指針
  1. 一般向けQ&A
     欧州委員会は、2003年10月29日、インターネット・コンサルテーションの結果を反映した REACH の最終案を発表したが、この最終案に基づく 『EU 新化学物質政策 REACH Q&A』 を REACH の解説書として同時に発表した。
     このQ&Aは、REACH の理念、登録・評価・認可の要件と手続き、組織と運用、産業の革新と競争力、REACH にかかるるコストと得られる便益、インターネット・コンサルテーションでの問題提起、最終案として変更された内容など、38項目のQ&Aにより、分かりや すく解説している。REACH の”一般向け”入門書として最適である。当研究会で日本語訳した。
    EU 新化学物質政策 REACH Q&A (当研究会訳)
     ・Q and A on the new Chemicals policy REACH (原文)

  2. 上級者向けQ&A
     2004年11月22日にQ&AのパートU(”上級者向け”)が発表された。PDF版40頁のもので、上級者向けに事例を挙げて詳細に解説している。
    EU 新化学物質政策 REACH Q&A パートU (当研究会訳) (2005/05/31)更新
     ・Questions and Answerson REACH Part II (原文)

  3. 実務者向け指針
     ”実務者向け”のmethodologies, tools and technical guidance については欧州化学物質局(European Chemicals Bureau (ECB))が発行することとなっており、一部発行されている。
    新たなEU化学物質政策REACHの評価ツール (当研究会訳) (2005/05/20)
     ・Assessment Tools under the New European Union Chemicals Policy (原文)

4. インターネット・コンサルテーションと各国のコメント
 (Contributions from Governments and Public Authorities による)


■インターネット・コンサルテーション概要
  1. 2003年5月、欧州委員会は、ドラフト REACH に関し、範囲と目的ではなく、その技術的要件を含む実施可能性について検討するためにインターネット・コンサルテーションを実施することとした。
  2. コンサルテーションは 2003年5月15日から7月10日までの期間で実施された。応募者はインターネット上の質問書、電子メール、FAX、標準様式又は自由形式の手紙など、いくつかの方法を通じて意見を提出することができた。
  3. 全ての意見はインターネット上で公表されたが、名前は匿名を希望する応募者については記載されていない。
  4. 6,000通以上の意見が寄せられた。そのうち42%は産業界・企業関連であり、NGO からは労働組合を含んで142通あった。
  5. EU 加盟国からは 5カ国政府(オーストリア、アイルランド、フランス、オランダ、イギリス)及び、それ以上の数の加盟国の公共団体がコメントを寄せた。加盟予定の 3カ国(ラトビア、リトアニア、ポーランド)からの公共団体、非加盟国の政府及び公共団体(オーストラリア、カナダ、チリー、中国、イスラエル、日本、マ レーシア、メキシコ、ノルウェー、シンガポール、スイス、タイ、アメリカ)、及び、国際組織であるアジア太平洋経済協力機構(APEC)及び、経済協力開 発機構(OECD)もコメントを寄せた。
  6. 産業界からは、アメリカ化学工業会(ACC)、欧州化学工業会(Cefic)など欧米の化学産業界とともに日本の産業界の下記団体もREACHに懸念を示すコメントを提出した。
    日本化学工業協会、日本石鹸洗剤工業会、日本ビニル工業会、日本化学工業品輸入協会・日本化学工業品輸出組合、日本自動車工業界、情報5団体共同(電子情 報技術産業協会、日本電機工業会、ビジネス機械・情報システム産業協会、家電製品協会)、電子情報技術産業協会半導体環境・安全委員会、ビジネス機械・情 報システム産業協会、在欧州日系ビジネス協議会(JBCE)
■各国政府、機関、団体、等からのコメント
 下記 EU のウェブサイトに各国政府、機関、団体、等からのコメントが掲載されている。
 ・Contributions from Governments and Public Authorities
 ・Non-governmental organisations
 ・Contributions from Industry - Associations
 ・Contributions from other categories

 主要国及び主要環境団体の反応を一言で言えば:
  • スウェーデン、ノルウェーは、 REACH 提案内容を歓迎
  • イギリス、ドイツ、フランスは手放しでの称賛ではない
  • 欧州環境 4団体(注)は、危険な化学物質廃止のために、より厳格な REACH を要求
    (注: Greenpeace, European Environmental Bureau, WWF, Friends of the earth
  • カナダは、カナダ環境法1999 (CEPA 1999)の下で既存化学物質の検証に経験ありと自負
  • アメリカ、日本は産業・貿易・革新に悪影響を与えるとして、REACH 推進への抵抗勢力
 下記は当研究会が翻訳した主要国及び環境4団体のコメント概要の中から拾い出した主な項目と、日本政府コメント提出版(日本語)及びその概要である。

スウェーデン国立化学検査院(KEMI)のコメント (当研究会部分訳)
  • REACH ドラフトは感動的で、よくバランスが取れている
  • 推進すべき要素として、製造者責任、既存物質に対する登録要求、高懸念性のある物質の認可などがある
  • 実施スケジュール、特に認可を見直す必要があり、理事会の ”2020年までの安全使用の目標” と関連させるべき
  • 予防措置と代替が、本規則全体の指針原則として、本文の初めに導入されるべき、また、それらは産業側への注意義務、認可、及び制限へ関連して本文に含まれるべき
  • 注意義務条項は特定の化学物質を評価する上で必要であると考えられる知識の入手を確保する一般義務で補完されるべきで、そこでは許容できる安全性評価を実施するために必要な情報は常に作成されなくてはならないと明記されるべき
  • 段階的登録のための完全性チェックは簡潔にすべき。少量化学物質の情報要件は再検討されるべき
  • 発がん性、変異原性または生殖毒性物質(CMRs)に加えて、難分解性・高蓄積性・毒性物質(PBT)及び、極めて難分解性・高蓄積性を有する物質(vPvB)で段階的登録されるべきものも、また施行3年後には登録されるべき
  • 100 トン未満の物質も施行11年後よりも早く登録されるべき
    (注) 最終提案では下記のようになった。
    すでに市場に出ている既存物質は段階的に REACH に取り込まれる。
    大量物質及び CMRs が最初に登録されなくてはならない。登録期限は本規制発効後、下記期限とする。
     ・3年 以内 :多量製造化学物質(年間1,000トン以上)及び 1 トン以上の CMRs
     ・6年 以内 :製造量が100〜1,000トン
     ・11年以内:少量製造化学物質(1〜100トン)

  • 認可賦与の基準は強化される必要があり、代替物の入手可能性は決定的な判断基準となるべき
  • 物質が調剤中、あるいは成形品中に含まれて市場に出される場合は全て、委員会の認可が要求されるべき
  • 物質に対する情報要件は物質のライフサイクルにそって、また成形品中に含まれている時にも適用すべき
  • REACH システムは、健康と環境の両方に対する高度な保護が全ての領域であてはまることを確保するために、医薬品や化粧品など、REACH から除外された領域の見直しを行うことで、完全なものにするということが重要

ノルウェー政府のコメント (当研究会部分訳)
  • 全体として、提案される REACH システムは野心的であり良くできている
  • 優先順位をつけるべき。単離されない中間体など多くのグループは優先度を下げる、あるいは免除すべき
  • ある部分は複雑で理解しがたい。手続きのあるものは不必要に煩わしく、時間を費やす。可能な限り簡素化と明瞭化をはかるべき
  • 注意義務の導入に賛成。産業界が危険な化学物質を代替するよう、一般管理条項に代替原則が記述され、注意義務に関する条項で規定されるべき
  • 製造者、輸入者、及び川下ユーザーが取り扱う物質の化学的安全性評価を実施し、リスク削減方法を特定し、適用し、勧告すべきことに賛成
  • 公衆が環境情報を入手できるよう、情報の透明性と容易になアクセスできることが重要
  • PBT と vPvB 物質の登録期限は CMR (カテゴリー1、2)と同じ登録期限(REACH 発効後3年以内)とするよう検討べき
  • 医療品及び食品添加物は免除されているが、環境及び職業上の健康が適切に確保されないのではないかと懸念する
  • ポリマーに要求される情報には、例えば、焼却時や高温下での挙動など、全体のライフ・サイクルに関するデータを含むべき
  • 動物テストは必要な時だけに実施されるべきことに賛成であるが、人間と動物の健康を確保し、環境を保護するために動物テストを含む研究は必要
  • 少量化学物質 (10トン以下/約20,000種) に対する情報要件が曖昧である。10トン以下の物質に関し、スクリーニングにおける繰り返し用量毒性テストの要求がないのは問題
  • 新設される欧州化学品機構に、産業側が実施するテスト提案と評価に関して、より大きな権限を与えるべき
  • PBT, vPvB 物質や内分泌かく乱物質など懸念ある物質が CMRs (カテゴリー 1及び 2)とともに、認可に含まれていることは歓迎
  • 認可の指針は標準化され、予防原則、代替原則、ライフ・サイクル・アプローチ、及び、 ”一世代目標 (one-generation target)” に目を向けなくてはならない
    ・制限のシステムは、認可対象となる物質の使用に関し、一般的、又は部分的な禁止のために積極的に適用されるべき

イギリス政府のコメント (当研究会部分訳
  • 最も有害なものから着手しつつ、当該物質のテスト、審査、評価の迅速かつ効果的で実施可能なプロセスを作り出すこと
  • 動物実験は人間の健康と環境を保護するために必要最小限とすること
  • 化学産業界と川下ユーザーの競争力を維持し、強化すること
  • 物質毎ではなく製造者毎の登録のため、効果的な優先度設定が欠如し、優先度の低い多くの物質を潜在的に含むことを懸念
  • REACH の管理上の複雑さが潜在的な便益を制限することを懸念
  • 現在の職業健康安全(OHS)法との重複がもっと注意深く検討され調整されるべき

ドイツ政府、ドイツ化学工業会、及び鉱業、化学、エネルギー産業連合の共同コメント (当研究会部分訳
  • 人間の健康と環境の高度で効果的保護は、化学産業の革新性と競争力を確保できる方法で実現する
  • 登録手続きは、まだ官僚的で金がかかり、迅速、簡潔、コスト効果的な手続きという約束を十分に満たしていない
  • 化学的安全報告書の申請と要件に関する部分、特に 中小規模の企業ユーザーに関しては、かなり問題がある
  • 産業と商業上の秘密保持が十分に確保されていない

欧州環境4団体共同コメント概要 (当研究会部分訳)
 (注: Greenpeace, European Environmental Bureau, WWF, Friends of the earth
  • 新たな REACH の展開が建設的であり、産業側に化学物質に関する安全データの提出を義務付けたことは歓迎
  • 非常に高い懸念のある物質を特定し、認可の対象としたことは評価
     ・PBT:人の体内と環境に蓄積し、その有毒性が知られている化学物質
     ・vPvB:人の体内と環境に蓄積するが、その有毒性がまだ知られていない化学物質
     ・ED:内分泌かくらん物質を含む同等の懸念がある化学物質
  • しかし、認可と登録において、非常に高い懸念のある化学特性の取り扱いに矛盾がある
    すなわち、CMRs (発がん性、変異原性、生殖毒性の物質) が、PBT、vPvB、ED に比べて優先的に扱われている
  • より安全な代替が入手可能でも、非常に高い懸念のある物質の認可を得ることができることが問題
  • CPA が取りまとめた代替の実行可能性についての報告書の概要を添付して代替原則を強調
    (注)当研究会がその概要を 『 REACH でより安全な化学物質:代替原則でグリーンな化学へ(紹介) 』 として日本語訳
  • 企業側は化学物質の製造と使用に関する多くの情報を秘密にすることが許される
  • 輸入される消費者用製品にテスト未実施の化学物質が含まれることが許される
  • 多くの重要な概念が十分に定義/説明されていない。例えば、適切な管理、社会経済的評価、曝露シナリオなど
アメリカ政府のコメント (当研究会部分訳)
    (問題点)
  • 提案は一般的に実行不可能な法規制アプローチを設定している
  • 現在進められている国際的な法規制に関する努力から逸脱している
  • 不確実な利益に対し著しいコストが発生する
  • 中小の企業 (SMEs )に対し不都合な影響を与える
  • 世界貿易を混乱させる
  • 革新に対し悪影響を与える
  • 市場を不確実なものにする
  • コンソーシアム及びデータ共有に関する懸念が生じる
    (結論)
  • 最も高いリスクを及ぼすと思える物質に EU の資源が注力できるよう、法規制の適用範囲を狭めること
  • 既存の化学物質が及ぼすリスクに対し、効果的に向けられている現在の国際的な共同努力を補完するものであり、決してそれを置き換えるものではないというアプローチを展開すること
  • 法規制が決定される過程を明確で透明なものにすること
  • EU の規制案は、プラス及びマイナス双方の影響に関し、完全で、かつ透明性をもって評価されること

カナダ政府のコメント (当研究会部分訳)
  • カナダ環境法1999 (CEPA 1999) で既存化学物質の検証を実施しており、その経験を共有できる (優先順位設定、スケジューリング、及びリソースへのインパクトに関連する経験など)
  • 機密保持の条件の下、他国政府と評価及びその他のデータを共有すべき
  • 申請者毎に認可するのではなく、包括的な認可の方法を検討すべき
  • 化学産業の取引減少、中小企業の革新抑制、川下ユーザーへの化学品の供給限定などの結果を恐れる
  • 除外と免除に関する分類が重要。もし原油や天然ガスなど天然の物質が登録から除外されるなら、天然鉱石や精鉱も登録から除外されるべき
  • カナダは現在、懸念の低いポリマーに対する規制要求を緩和することを検討中
  • リサイクル可能な危険資源を REACH に含めることの利益は疑問
  • REACH ではコンソーシアム・メンバーだけに当該物質の使用が限定されるが、カナダのオープン・ケミカル・インベントリーでは誰でもが製造・輸入することができる

■日本政府/経済産業省のスタンスとコメント概要

経済産業省としての基本的なスタンス
APEC 加盟国・地域、欧州新化学品規制案に懸念を表明 (APEC プレスリリース 2003/8/23)/経済産業省 添付資料

APEC プレスリリース に添付された資料の中で経済産業省の基本的なスタンスとして下記のように述べている。
  1. 人の健康の保護・環境の保護という化学品規制の目的自体については支持。
  2. 本規制は、我が国からの進出企業を含む欧州における化学物質を取り扱う企業の事業活動及び貿易に大きな影響を与えるものであり、重大な懸念を有している。
  3. 新たな化学品規制については、科学的根拠に基づくリスク評価・管理を基本とすべき
  4. また、バランスの取れた、費用対効果の高い、実行可能なものにすべきであり、産業界に過度の負担をもたらすべきではない。
  5. WTO 協定上の義務との整合性は完全に確保されるべき。
APEC加盟国・地域
 豪、ブルネイ、カナダ、チリ、中国、香港、インドネシア、日本、韓国、マレイシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、シンガポール、チャイニーズタイペイ、タイ、米、ベトナム

日本政府コメント概要
日本政府コメント提出版/経済産業省

 企業によるイノベーションや経済活動を阻害し、国際貿易・投資の障害にならぬよう全体の適切なバランスに配慮すべきという、産業界保護の観点からのみなるコメントを経済産業省が提出した。その概要を下記に示す。
 人間の健康と環境の保護について、いかに理念がないかがよく分かる。

1. 目的に照らして過剰な義務を事業者に課すものではないか
  • 安全性に係るデータ取得や初期リスク評価の義務付けの範囲を合理的に設定すべき
  • CSR(化学品安全性評価書)に記載すべき情報の必要性を再精査した上で、現行の安全性データシート(SDS)に一元化すべき
  • REACH と化学物質を規制する既存の制度間の同様な義務の重複は避けるべき
  • 川下ユーザー用途を90%以上把握する必要があるとしているが、実際にどの様な方法で90%以上の用途を把握するのか
  • 事業者の営業秘密に適切な配慮が必要
  • 中間物は適切に管理される場合には環境中に放出され、人の健康等に悪影響を与えるおそれはない
  • 「輸送される中間物」について、義務が軽減される要件としての使用先の個所を限定すべきではない
  • 現在の欧州指令で認められている「総代理人」制度は新たな制度においても存続させるべき
  • 当該登録国の言語とその他言語の複数言語での書類の作成が求められると、登録者には煩雑で負担が大きくなる
2. 必要以上に貿易制限的ではないか (WTO 諸協定との整合性)
  • 成形品に含まれる物質に関する規制案は、記述に一般的、抽象的な表現が多く、実際の運用次第では、必要以上に EU への輸出に支障が生じ、貿易制限的な効果を持つおそれがあり、WTO 諸協定との整合性にも問題が生じうるおそれがある
  • 「実 質的に高い排出」の明確な数値基準、「人の健康や環境に対する悪影響」の具体的な意味や判断のための項目、「1年当たり合計1t」の意味の明確化を図ると ともに、登録が必要となる成形品や数量を合算すべき製品のタイプ等について当局においてポジティブリストを作成し、関係者に明示した上で、再度、関係者の コメントを求めて検討を行うべき
  • コンソーシアム内でのコストシェアの調整にあたっては、製造・輸入数量を基礎として適切な調整が行われるよう、公的な機関が関与すべき
3. 規制制度の国際調和の動きとの整合性を確保すべき
  • 内分泌かく乱作用が疑われる化学物質については、試験方法の開発など国際的に科学的知見の集積が進められている段階であり、現時点で、内分泌かく乱作用のみを根拠として製造・使用を制限するのは時期尚早である
  • PBT (注:残留性・生体蓄積性・有毒性)等の判断基準について国際整合性が確保されるべき
  • 域外のGLP(注:Good Laboratory Practice)試験所で取得されたデータについても、登録等に用いることができる旨を明らかにすべき
4. 規則案の適用の統一性、透明性、 EU 各加盟国において公平性が確保されるか否か
  • 評価を行う各加盟国の経験には差があり、評価のレベルに大きな差が生じることが懸念される
  • ガイドラインの設定等により各加盟国当局毎の裁量により恣意的に範囲が定められないことを確保すべき
  • REACH システムの実行可能性を確保するために、然るべき人員数及び知見を有する者から成る体制を整備し、制度導入前にその実行可能性を明らかにすべき
  • 物質の同一性を判定する方法(異性体や不純物含量、構成比など)を明確化すべき


5. インターネット・コンサルテーションの主要な論点
 (REACH 最終提案書 Vol.1 Results of public consultations and impact assessments による)


 2003年5月15日から7月10日まで行われたインターネット・コンサルテーションに寄せられた主要なコメントと、それが REACH 最終提案書にどのように反映されたのかについて、 REACH 最終提案書 Vol.1 Brussels, 29.10.2003, COM(2003) 644 final Volume I Results of public consultations and impact assessment  で、次のようにまとめている。

■システムの範囲
 ポリマー及び成形品中の物質を含めることについて EU 産業界と域外の通商相手諸国から、その実施は過度で困難であるとして批判された。
 全ての製造者、輸入業者、及び川下ユーザーに化学的安全性評価を求めることも白書の提案の程度を超えるものとして批判された。
  • ポリマーは登録と評価からは免除されたが、認可と制限の対象としては残された。これは、どのポリマーが登録されるか定義するための健全な科学的基準が作られた時に、欧州委員会によって見直されることとなった。
  • 成形品中の物質については、もう少し軽い方法で対処することとなった。
  • 化学的安全性評価の義務要件は大幅に縮小された。
■法的確実性 (Legal certainty)
 産業界は注意義務(duty of care)が無制限な責任を要求することを恐れた。彼らはまた、新設予定の欧州化学品機構に異議申し立ての仕組みが不十分であることについての懸念をあげた。
  • 注意義務は規制を補強する原則の説明に置き換えられた。
  • 欧州化学品機構に異議申し立てに対応する”異議審査委員会”が設置されることとなった。

    (注1)
    1. REACH オリジナル提案での記述
    注意義務(説明での記述2.)
     新たなシステムの主要な姿の一つは、その量にかかわらず、化学物質を製造し輸入し使用する全ての企業は、人間の健康と環境が有害な影響を受けることがな いようなやり方で物質を用いるべきとする義務である。このことは、これらの化学物質の製造、輸入、又は使用によって引き起こされるリスクを評価し、特定さ れたいかなるリスクをも管理するために必要な措置をとることにより達成される。

     63条 市場に製品を出す者の注意義務 (Duty of care for those placing articles on the market)
      欧州議会及び欧州理事会の指令2001/95/ECを侵すことなく、製品の製造者及び輸入者は市場に出す製品を、それらの製品から排出されるいかなる物質からも人間の健康と環境が有害な影響を受けることなく使用することができるようにしなくてはならない。

    2. REACH 最終提案での記述
     注意義務の条項はなくなり、一般原則として第1条で次のように記述している。
     1条 主題 (Subject-matter (Page 68))
      3. この規制は、人間の健康又は環境に有害な影響を及ぼさないような物質を製造し、市場に出し、輸入し、あるいは使用するということを確実にするのは製造者、輸入者、及び川下ユーザーの責任であるという原則に基づいている。その条項は予防原則によって支えられる。

■コスト
 産業界、いくつかの加盟国、及び多くの域外通商相手諸国は、過大なコスト、特に生産量の少ない化学物質、川下ユーザー、及び中小規模企業(SMEs)にかかるコストに関する懸念を表明した。
  • 川下ユーザーに対する化学的安全性評価の実施と化学的安全性報告書の作成要求は大幅に制限された。
  • 登録義務は1〜10トンの物質に対して簡略化された。化学的安全性報告書(CSR)の提出が不要となり、テスト要求も緩和された。
  • ポリマーに関する要求が取り下げられた(上記参照)。
  • 中間体の厳密な管理下での輸送に関する要求が緩和された。
■事務手続きの煩雑性/欧州化学品機構の権限
 多くの関係者が、REACH の事務手続きが非常に煩雑で、業務の分担(加盟国及び欧州化学品機構)が非常に複雑であるという事実を批判した。彼らはまた、意思決定に当たり一貫性が保てないとの懸念を表明した。
  • 登録手続きの合理化については欧州化学品機構が単独で責任を持つ。
  • 評価についてはシステムを円滑に動かし意思決定を監視するために欧州化学品機構がより大きな責任を持つ。手続きは再構築され明確になった。
  • 化学的安全性報告書のシステムは既存の安全データシートのシステムと整合性を持たせる。
  • 欧州化学品機構は、データの共有、研究開発の免除、及び機密性に関する決定についての権限が拡大された。
■化学物質についての情報に対する機密と権利
 産業界、特に川下ユーザーはビジネス上の機密の開示を強制されるかもしれないという懸念を声を大にして表明した。NGOs は成形品の化学物質成分に関し、高いレベルの透明性を主張した。
  • ビジネス情報の機密のより厳しい保護 : 正確な生産量、顧客名など、ある種の情報は常に機密として厳密に取り扱われる。また、特別な理由があり、それが認められれば、企業が機密性を請求することができる。
  • 非機密項目の全ての情報は請求することで入手可能であり(EC の情報公開に関する法)、いくつかの項目は公表され、自由に入手することができる。
■代替
 NGOs、産業界の一部及び EU 加盟国の一部は、代替に関する、より強い条項を設けるべきであると主張した。
  • 代替に対する明確な記述を解説及び認可に関する条項に記載 : 企業は認可の決定に影響を与える代替計画を提出することが奨励される。

    (注2)
    1. REACH オリジナル提案での記述
    48条 認可の賦与
     3.(c) 代替物質あるいは代替技術に関する入手可能な情報
      代替は考慮されなくてはならないが、代替の存在だけをもって、認可を拒否するための十分な根拠とはならない。

     このオリジナルの記述に対し、一部 NGOs 等は下記のような記述を主張した。
      より安全な代替物が入手可能ならば、それは認可を拒否するための十分な根拠となる。
      (REACH でより安全な化学物質−代替原則でグリーンな化学へ/Clean Production Action ) (当研究会部分訳)

    2. REACH 最終提案での記述
    導入部の解説 (7) (Introduction to the proposal, Annexes (7) Page 56)
     この規制により確立されるべき新たなシステムの重要な目標は、より危険の少ない物質又は技術が入手可能ならば、それにより危険な物質を代替することが推奨される。

    58条 認可の見直し
     申請者は、リスクが適切に管理されることを立証できないなら、オリジナルの申請に含まれていた社会経済分析の改訂版、代替案の分析、及び代替計画を提出しなくてはならない。

    59条 認可の申請
     申請書類は下記を含むかもしれない:
     (b)研究開発及び工程表を伴った、代替物のリスク及び技術的経済的な実現可能性を考慮した代替計画

    59条の解説 (Page 35)
     認可賦与の条件を考慮して、申請者は、代替案と代替計画はもちろん、Annex XV に従い、認可が賦与された場合又は拒否された場合の社会経済的分析を提出してもよい。認可の決定は当局に対する有効な情報に基づいて行われる。
■動物テスト
 この提案のドラフト作成に当たって動物実験を制限することが一つの指針であった。 ”毒性学、生態毒性学、及び環境に関する科学委員会(CSTEE)”  は、考えられているような動物テストではリスクを回避するための十分な情報が得られないと懸念し、もっと多くのテストが必要であると述べた。
  • 動物テストを制限すべきとの強い世論の圧力のために、テストの数は増やさなかった。
  • 人間の健康と環境を 損なうことなく動物テストの必要性をさらに削減するためには、定性的又は定量的構造−行動関係モデル(qualitative or quantitative structure-activity relationship models, (Q)SARs)の使用が奨励される。本文ではまた、データの共有を義務とすることが明確に示された。
■影響評価と事務手続き
 提案されたシステムにより起こりうる影響について、いくつかの特別な研究が実施された。これらの研究結果は影響評価の作成時に考慮された。この提案を実施していく過程で、その影響を監視し、対応していく。関係者もこの実施に招聘されることになる。

  事務運営については、白書は、新たなシステムには REACH の運用に関し主導的役割を果たす ”中心組織” の創設が必要であるとしている。当時は、その ”中心組織” はヨーロッパ化学物質局  (European Chemicals Bureau (ECB)) のイスパラにある合同研究センターの一部を拡張して、新たな業務を遂行することが考えられていた。
 しかし、その後、ECB を拡張しても、新システムにより大幅に増大する業務に効果的に対応することはできないという厳しい指摘があった。従って、欧州委員会は企画化調査を実施し た。全ての要素を注意深く検討した結果、欧州委員会は、提案 REACH システムの効果的な実施には独立した機関が本質的であるとの結論に達した。従って、提案では新たな ”欧州化学品機構” を設置することとした。
 専門家投入の効率性、連続性、最適性を考えると、新機構の設置場所はイスパラが最もふさわしいと考えられる。

■REACH で採用されること (まとめ)
 この提案により REACH システムが確立され、欧州化学品機構が設立される。
 簡潔に言えば、REACH は次の要素からなる。
  • 登録 (Registration) : 産業に対し化学物質を安全に管理するために必要な全ての関連情報を求める。
  • 評価 (Evaluation) : 産業が健康と環境に対する責務を果たしているという信頼をもたらし、不必要なテストを防ぐ。
  • 認 可 (Authorisation) : 非常に高い懸念のある特性をもつ物質の使用に関わるリスクの見直しを行ない、もしそれらが適切に管理されるな ら、あるいは社会経済的利益がそのリスクより重要であり、かつ、適切な代替物質又は技術がない場合には、その使用が許される。
  • 制限 (Restrictions) : 原則禁止、又は用途・条件を限定するもので、 REACH におけるリスク管理上の安全ネットである。
 新機構は、REACH システムがよく機能し、全ての関係者から信頼を得ることができるよう、欧州共同体レベルでの REACH システムに関わる技術的、科学的、及び事務管理的分野を管理する。

■予想されるコストと利益
 テスト及び登録コスト
欧州委員会による影響評価によれば、 REACH が化学産業界に及ぼす直接コストの合計見積り金額は、11年間で約23億ユーロ(約3,000億円)であり、その中には欧州化学品機構の経費約3億ユーロ(約400億円)が含まれる。
5月提案時のドラフトは、コストを低減し事務手続きを最小とするよう徹底的に見直しが行われた。11年間で総計23億ユーロー(約3千億円)という新しい ”影響評価” は、インターネット・コンサルテーションのドラフト時における見積もりコストを82%圧縮している。
 川下ユーザーにかかるコスト
採算性がとれなくなるという理由で物質の 1〜2%が市場から消えると仮定すると、化学物質の川下ユーザーに及ぼすコストインパクトは約28〜36億ユーロ(約3,700〜4,700億円)と見積 られる。もし、サプライチェーンがもっと高いコストを採用すれば、そのコストは約40〜52億ユーロ(約5,200〜6,800億円)に増大するであろ う。これらの見積り金額には化学産業企業から川下ユーザーにパスオンされる直接コストも含まれる。
 合計コスト
化学産業とその川下ユーザーにかかる合計コストは11年間で約28〜52億ユーロ(約3,700〜6,800億円)である。マクロ経済学的展望によれば、 EU の域内総生産(GDP)における減少への総合的影響は非常に限定されたものとなると考えられる。
 環境と人間の健康に対する予想利益
これにはは著しいものが期待される。全ての描かれたシナリオがもたらす利益の概算は30年間に500億ユーロー(約6兆5千億円)と見積もられる。

6. EU の REACH 実施に向けての動き (2005/07/27)追加


■REACH 実施プロジェクト(RIPs)
1. 目的
 欧州化学物質局(European Chemicals Bureau (ECB))内に、REACH 実施プロジェクト(REACH Implementation Projects(RIPs))が設置されている。その目的は、REACH実施に向けて、新設予定の化学品機構、産業界及び各国当局がREACHを効率的 に運用できるよう、ガイダンスやITツールを開発することである。RIPsには7つの分野がある。

 RIP 1 - REACH Process Description: Development of a detailed description of the REACH processes
 RIP 2 - REACH-IT: Development of the IT system set up to support REACH implementation
 RIP 3 - Guidance Documents: Development of guidance documents for industry
 RIP 4 - Guidance Documents: Development of guidance documents for authorities
 RIP 5 - Setting up the Pre-Agency
 RIP 6 - Setting up the Agency
 RIP 7 - Commission preparation for REACH

2. RIPs成果物の一部
■産業界によるビジネス影響評価(KPMG 調査)
 欧州委員会が合意した枠組みの中で産業界がコンサルタント会社KPMGに委託したビジネス影響調査であり、その報告書は2005年4月に欧州委員会の ワーキング・グループで検討されたが、中小企業が若干の影響を受けるが、それ以外は欧州産業が影響を受けるという証拠はほとんどないとしている。
■実行可能性検証プロジェクト(SPORT プロジェクト)

 加盟国、産業界及び欧州委員会からなるSPORT(Strategic Partnership on REACH Testing)プロジェクトがREACHの実行可能性を検証し、その報告書が2005年7月に発表された。
 9加盟国、化学物質を使用している25社、化学物質を製造している29社が参加して、8物質又は物質グループ、合計50物質を用いて、REACHの事前登録、登録、及び書類評価の実行可能性が検証された。
報告書によれば、現状のREACHの条文は調整と明確化が必要であるが、REACHの実行可能性が確認された。また、同報告書はREACH実施のためのガ イダンスとツールが必要であるということを強調したが、ガイダンス及びITツールについては欧州委員会のREACH実施プロジェクト(REACH Implementation Projects (RIPs))が開発作業を行っている。


7. REACH と予防原則


予防原則の引用
  • REACH の根底をなすものは予防原則であり、REACH の源となった EU の2001年白書では "EU の化学物質政策は予防原則に基づく" と明示している。
  • さらには EU 自体の源である EC 条約では、"EU の環境政策は予防原則に基づく"と明示しいる。
  • 2003年5月に発表され、インターネット・コンサルテーションに付された REACH ドラフトには、明示的な予防原則の引用はなかったが、2003年10月29日に発表された REACH 最終提案では、その初めの部分で、全体の指針原則として予防原則 (Precautionary Principle) が引用された。

    (引用の詳細: 後述 「REACH、白書(COM (2001) 88)、及び、EC 条約での予防原則引用」 を参照ください。)

    (注1)インターネット・コンサルテーションで、予防原則を全体指針として掲げるべきとのコメントが北欧諸国などからあり、それが実現したが、REACH 最終提案書 Vol.1 (final Volume I Results of public consultations and impact assessment)には、なぜか、コメントによる変更点としては挙げられていない

EU の Q&A の中での予防原則の解説

 2004年11月22日にEUが発表した Questions and Answers on REACH Part II の第1項目として予防原則の適用に関し、以下のように解説している。

1. 予防原則
(問い)
1.1. 予防原則は提案の中で明示的に述べられているか?
(答え)
Art. 1(3)で明示的に述べられている。
Art. 1(3):REACH 規制は予防原則で補強されている。
Art. 1(3)脚注:COMMUNICATION FROM THE COMMISSION on the precautionary principle (COM(2000)1)を参照している。
  訳注:予防原則に関するECコミュニケーション COM2000(当研究会訳)

(問い)
1.2. 規定は予防原則によってどのように補強されるのか?
(答え)
 REACH規制は予防原則に基づいており、その要求は予防原則に関する欧州委員会からのコミュニケーション(COM(2000)1)に述べられている原則を履行することである。

 どのように予防原則が履行されるかについての例を以下に示す。
  • 安全性評価: もし、科学的な証拠に不確実性があれば(例えば、矛盾するデータが存在する)、安全評価は通常、最も高い懸念を引き 起こす証拠に基づくべきである。予防原則コミュニケーション(訳注:白書)で規定されている諸原則もまた、REACHの実施に当たり産業側と当局を支援す るために開発される指針の中に反映されるべきである。

  • リスク管理措置: 会社が特定の危険に関するテスト データを待っている間、その潜在的なリスクのためのリスク管理措置が適切であること及び安全評価の中でこれらの措置を記述することを確実にすべきである。 PBT(難分解性・蓄積性・毒性物質)及びvPvB(高難分解性・高蓄積性を有する物質)の場合には、産業側は常に曝露を最小とするよう要求される(参 照: Annex I, Section 6.5)。

  • 認可: 産業側は、リスクを管理するために措置がとられていても、非常に高い懸念のある物質の使用には認可を求めることが要求される。

  • 制 限: 当該化学物質の使用に関連して深刻なリスクの兆候がある場合には加盟諸国と欧州委員会は速やかに制限を提案することができる。このようにして、予防 原則は、科学的評価のために必要なデータを確立するのに非常に長い時間を要する場合、あるいは十分な確実性をもってリスクを決定するにはデータが十分でな い場合に適用することができる。


どのように適用されているか
  • 予防的措置
     REACH 最終提案は、REACH の目的を ”人間の健康と環境が、合理的に予見できる状況下で化学物質の製造あるいは使用によって有害な影響を受けることがないようにする” とし、 ”この規制は EU コミュニケーション (COM(2000) 1 final) が示す予防原則によって支えられる” と述べている。(Volume 1 Page 19)
     予防原則に関するECコミュニケーション COM 2000/1 (当研究会訳)
     COMMUNICATION FROM THE COMMISSION on the Precautionary Principle (COM 2000/1) (原文)

    REACH では、例えば次のように予防的措置をとることとなっている。
    • 既存の化学物質と新規化学物質は区別されることなく、 REACH の対象とする
    • 非常に高い懸念がある全ての物質 (注2) は認可の対象となり、製造者又は輸入者が当該物質の使用が適切に管理されること、又は社会経済的な便益がリスクよりも重要であるということを示すことができなければ認可されない
    • vPvBs物質が毒性を問わずに対象とされたことは、予防原則に立脚したものである。vPvBs物質については、毒性が判明してから規制するのでは遅すぎるからである。
    (注2) 非常に高い懸念がある物質
      ・CMRs (発がん性、変異原性、又は生殖毒性) カテゴリー1及び2 【注】
      ・POPs 残留性有機汚染物質
      ・PBTs (残留性、生体蓄積性、及び有毒性)
      ・vPvBs (非常に残留性が高い、非常に生体蓄積性が高い)
      ・人間と環境に対し、深刻で取り返しのつかない影響を与えるものと特定された物質、
       例えば、ある種の内分泌かく乱物質

    【注】CMRsの分類
     Commission Directive 2001/59/EC of 6 August 2001

    4.2.1. Carcinogenic substances
     Category 1:ヒトへの発がん性が知られている物質
     Category 2:ヒトへの発がん性があるとみなされるべき物質で、十分なデータがある
     Category 3:ヒトへの発ガン性の懸念がある物質であるが、データが十分ではない
    4.2.2. Mutagenic substances
     Category 1:ヒトへの変異原性が知られている物質
     Category 2:ヒトへの変異原性があるとみなされるべき物質で、十分なデータがある
     Category 3:ヒトへの変異原性の懸念がある物質であるが、データが十分ではない
    4.2.3. Substances toxic to reproduction
     Category 1:ヒトへの生殖能力を損なうことが知られている物質
     Category 2:ヒトへの生殖能力を損なうことがあるとみなされるべき物質で、十分なデータがある
     Category 3:ヒトへの生殖能力を損なうことの懸念がある物質であるが、データが十分ではない

  • 立証責任
     現在、市場に出ている化学物質の危険性を証明しているのはEU当局であるが、REACHでは化学物質のデータを収集し、テストを行い、安全性を証明する責任は化学物質を製造する企業側に移行する。
     認可において、”使用によるリスクが適切に管理されること、又は、社会経済的便益がそのリスクに勝ることを証明する責任は申請者にある”と述べている。 (Introduction to the proposal 1.7 Authorisation Page 16)
     すなわち、安全性の立証責任は当局側から企業側に移行された。

  • 注意義務
     REACH オリジナル提案にはあった注意義務の条項は(産業界の強い反対で)削除され、最終提案では一般原則として第1条で次のように記述している。
     1条 主題 (Subject-matter (Page 68))
      3. この規制は、人間の健康又は環境に有害な影響を及ぼさないような物質を製造し、市場に出し、輸入し、あるいは使用するということを確実にするのは製造者、輸入者、及び川下ユーザーの責任であるという原則に基づいている。その条項は予防原則によって支えられる。

  • コストと便益の検証
     認可賦与(57条)、他において、 ”そのリスクが適切に管理されない場合、もし社会経済的な便益が人間の健康と環境に及ぼすリスクよりも重要であり、かつ、適切な代替物質又は技術がなければ、認可が賦与される” とある。(Volume 1 Page 34)

     解説 (Volume 1 Page 35)において、 ”認可賦与の条件を考慮して、申請者は、代替案と代替計画はもちろん、Annex XV に従い、認可が賦与された場合あるいは拒否された場合の社会経済的分析を提出してもよい。認可の決定は当局に対する有効な情報に基づいて行われる” とし ている。

  • 再検証
     認可の見直し(58条)において、 ”認証のベースとなった、例えば科学的ベースに変更が生じたような場合には、いつでも再検証を行い、必要があれば認証の変更あるいは取り消しを行うことができる” としている。(Volume 1 Page 34)

  • 代替原則
     不十分ではあるが、 REACH 最終提案における説明及び認可の関連条項で以下のように記述された。
    導入部の解説 (7) (Introduction to the proposal, Annexes (7) Page 56)
     この規制により確立されるべき新たなシステムの重要な目標は、より危険の少ない物質又は技術が入手可能ならば、それにより危険な物質を代替することを推奨(encourage)する。 (”要求する”ではないところが不十分)

    (注3) REACH オリジナル提案における記述は
    48条 認可の賦与
     3.(c) 代替物質あるいは代替技術に関する入手可能な情報
      代替は考慮されなくてはならないが、代替の存在だけをもって、認可を拒否するための十分な根拠とはならない
    とあったが、一部 NGOs は下記のように主張していた。
      より安全な代替が入手可能ならば、それは認可を拒否するための十分な根拠となる
      (REACH でより安全な化学物質−代替原則でグリーンな化学へ/Clean Production Action
      (当研究会部分訳)

  • 目標の設定  人間の健康と環境を守るという大目標の下に、”2020年までの化学物質安全使用の目標(一世代目標)” を念頭に置いたスケジュールが設定されている。
     ・すでに市場に出ている既存物質は段階的に REACH に取り込まれる。
     ・大量物質及び CMRs が最初に登録される。
     ・登録期限は規制発効後、下記期限とする。
    • 3年 以内 :多量製造化学物質(年間1,000トン以上)及び 1 トン以上の CMRs
    • 6年 以内 :製造量が100〜1,000トン
    • 11年以内:少量製造化学物質(1〜100トン)
REACH には予防原則の基本的要素が全て含まれている

 予防原則の基本的要素について定説が必ずしもあるわけではないが、予防原則に関する欧州連合コミュニケーション(COM(2000) 1 final)で挙げている6つの基本要素、及び、アメリカのローウェル・センターを中心とするウィングスプレッド系や北欧の NGOs ・学者・活動家たちが提唱する4つの基本要素がよく参照される。

 前者の基本要素は ”政策立案者” からの視点によるもの、後者の基本要素は ”被害を受ける側” からの視点によるものであるとも言える。
 いずれにしても、前述した REACH における予防原則の適用例は、これらの予防原則基本要素の一部であることがわかるが、REACH には例示した以外の基本要素も全て含まれている。

REACH は 予防原則をベースとした、人の健康と環境を化学物質の危険から守るための壮大なチャレンジである。

◆予防原則の基本要素 (EU(COM(2000) 1 final) の予防原則)
 (予防原則に関するECコミュニケーション COM 2000/1 )(当研究会訳)
  1. 選択された保護レベルに釣り合うこと
  2. 適用において非差別的であること
  3. 既に実施された類似の措置と一貫性があること
  4. 措置をとる叉は措置をとらない場合の潜在的便益とコストの検証に基づいていること
  5. 新しい科学データが得られた時には再検証の対象とすること
  6. リスク評価に必要な科学的証拠を作成する責任の所在を明確にすること
◆予防原則の基本要素 (ウイングスプレッド系の予防原則)
 (当研究会の予防原則のページ/NGOs
  1. 健康と環境を守る目標を設定し、それに向けて働きかけること
  2. 潜在的に有害な行為や物の代替を探し、より害の少ないものを使用すること
  3. 立証責任は被害者や潜在的な被害者ではなく、行為の提案者に移行すること
  4. 健康と環境に影響を与える政策決定には民主主義と透明性があること

REACH における予防原則に関連するノルウェーのコメント(参考)

 インターネット・コンサルテーションでのノルウェーのコメント中に、予防原則に関連する部分があるので、参考として以下に引用する。

認可手続き
 PBT, vPvB 物質や内分泌かく乱物質などな懸念ある物質が CMRs (カテゴリー 1及び 2)とともに、認可に含まれていることを歓迎する。これにより認可の体系が人間の健康とともに深刻な環境への懸念に注目することを可能とする。

 認可の指針は標準化され、予防原則(recautionary principle)、代替原則(substitution principle)、ライフ・サイクル・アプローチ、及び、OSPAR 条約(注5) 及び EU の水政策における指令 2000/60/EC  に述べられている ”一世代目標 (one-generation target)”(注6) に目を向けなくてはならない。

(注5):OSPAR Convention
 Convention for the Protection of the Marine Environment of the North-East Atlantic
(注6):参考
 一世代目標−問題ある物質を2020年までになくす−どのように実現するか? / デンマークEPA(当研究会訳)

 これらは特に PBT, vPvB 物質 に対して重要である。これらの物質が消費者製品に含まれていると、製品のライフサイクルにおける使用及び破棄の段階で曝露源となるので、そのような曝露を 防ぐことができる管理方法が示されるか、あるいは、例えばガソリン中のベンゼンのように社会経済的にやむを得ない場合を除いて、一般的には認可されるべき ではない。

 48.3項によれば、社会経済的便益が人間の健康又は環境に与えるリスクより重きが置かれる場合には認可が与えられることがあるとしている。コスト−便 益分析において、コストの ”重み” と便益を比較するために、リスクは金額価値に変換する必要がある。我々は、長期間にわたる健康と環境に及ぼす有害な 影響に関するコストを定量化し、外挿することは難しいと懸念する。
 経験によれば、長い間汚染した環境を元に戻すことは、例えそれが可能であったとしても、非常にコストがかかる。環境的及び職業的健康影響を考慮して、社会に与える全体コストを定量化するための適切な手法をさらに検討する必要がある。
 また、リスク評価の科学的不確実性は、人間の健康や環境をコスト換算して得られる結論にバイアスを与える可能性がある。従って、政策決定にあたっては、予防的考慮(precautionary considerations)がなされることが重要である。

 認可の賦与48.3(a)項は、オリジナル提案では下記のように記述されている。
 ”認可が第2 項に基づいて賦与されない場合、認可は、社会経済的利益が当該物質の使用から生じる人の健康及び/又は環境へのリスクより重要である場合に賦与される。この決定は、下記の全ての要素を考慮した後で下される:
 (a) 当該物質の使用によって与えられるリスク”

 この(a)項は下記のように書き改めることを提案する。
  ”科学的不確実性があるということは高いリスクレベルを暗示しているかもしれないということを十分に考慮した、物質の使用によりもたらされるリスクのコスト”

REACH、白書(COM (2001) 88)、及び、EC 条約での予防原則引用

■ REACH Proposed Final Documents / COM 2003 0644 (03)
VOLUME I - Proposed Regulation & Directive

◇2. 規制の内容 (CONTENT OF THE REGULATION)
 2.1 一般事項 (General Issues)
 1条 主題 Article 1 ・Subject matter (Page 19)

 ”これは、この規制の目的、すなわち、化学物質市場の効果的な機能を確保するとともに、人間の健康と環境が、合理的に予見できる状況下で化学物質の製造あるいは使用によって有害な影響を受けないようにするという目的を述べるものである。この規制は、その適用条件を予防原則に関する欧州連合コミュニケーション(COM(2000) 1 final)が示す予防原則によって支えられる。”

◇主題と範囲 (SUBJECT-MATTER AND SCOPE)
 1条 主題 Article 1 Subject-matter (Page 68)

 ”3. この規制は、人間の健康又は環境に有害な影響を及ぼさないような物質を製造し、市場に出し、輸入し、あるいは使用するということを確実にするのは製造者、輸入者、及び川下ユーザーの責任であるという原則に基づいている。その条項は予防原則によって支えられる(脚注25)。”

◇脚注25 (Page 68)
 ”予防原則に関する欧州連合コミュニケーション(COM(2000) 1 final)に述べられている通り。”


■EU 新化学物質政策 REACH Q&A
EU MEMO/03/213 Brussels, 29 October 2003 Q and A on the new Chemicals policy REACH

 ◇37. 新たな政策の法的根拠は何か?
 ”欧州委員会の提案は、EC 条約第95条に基づく規制であり、域内市場の安全な保護を目標としつつ、健康、安全、消費者、及び環境保護を高いレベルに保つためのものである。予防原則 (EC 条約第6条、第95.3条、第174.条) が必要な措置の実施におけるアプローチを導き続けるであろう。”


■将来の化学物質政策のための戦略に関する白書 2001年
White Paper on the Strategy for a Future Chemicals Policy, published in February 2001 (COM (2001) 88)

◇1. 導入(INTRODUCTION, Page 5 )
 ”EU の化学物質政策は、 EC 条約で掲げられているように、現在及び将来の世代のために人間の健康と環境を高いレベルに保つようにしなければならず、また他方、域内市場の効率的な機能と化学産業界の競争力を確保しなくてはならない。これらの目標を達成する基本は予防原則 (Precautionary Principle) である (脚注4)。
 ある物質が人間の健康と環境に有害な影響を与えるかもしれなという信頼できる科学的証拠はあるが、その正確な特性又は潜在的被害の程度についてはまだ科学的に不確実性がある場合には、意思決定は人間の健康と環境を守るために予防(precaution)に基づかなくてはならない。
 もう一つの重要な目標は、適切な代替があるならば、より危険性の小さい物質で危険を代替するよう推奨(encourage)することである。”

◇脚注4 (Page 5)
 ”2000年12月ニース欧州理事会の予防原則に関する宣言は、欧州委員会からの予防原則に関するコミュニケーションを歓迎するとしている。COM(2000)1, 2.2.2000”

◇4.4 他の物質のリスク管理の促進(Accelerated risk management of other substances, Page 20)
 規制の促進
 ”2つの要素が規制プロセスの促進に寄与する。
  1. 予防原則は、リスク評価プロセスがはなはだしく遅れる時はいつでも、そして許容できないリスクの兆候がある場合には、予防原則が引 用される。特に、もしある物質の手続きで情報の整理又はテスト結果が遅れるのならば、中央機関(the central entity)はその評価を結論付ける権限を与えられる。中央機関は予防原則を適用し可能な程度に全面禁止というリスク管理措置に着手するという勧告を付 けて書類一式を欧州委員会に送付する。

  2. 合理的に短い時間枠で他の物質のリスク管理の決定に着手するためにはさらに促進が必要である。従って、欧州委員会は、”指令76/769”の委員会手順を今までより大規模に用いる権限を与えられるべきである。
     このアプローチは可能な制限を最大限考慮し、特に、可能な代替物の危険がより大きいのか、より小さいのかを検討する。”
◇用語解説と略語 (GLOSSARY OF TERMS AND ABBREVIATIONS Page 29)
 予防原則
 ”この原則はEC条約174条と2000年2月2日の欧州委員会コミュニケーションに記述されている。それは、環境、人間、動物、又は植物の健康に及ぼ す潜在的に危険な影響が、共同体のために選択される高い保護のレベルと一致しないかもしれないという懸念に対する合理的な根拠を示す予備的科学的評価があ る時に適用する。”


■EC 条約 Treaty establishing the European Community
CONSOLIDATED VERSION OF THE TREATY ESTABLISHING THE EUROPEAN COMMUNITY / Official Journal C 325 , 24 December 2002

◇ 環境 第174条 (ENVIRONMENT Article 174)
  1. 共同体の環境に関する政策は、共同体の様々な地域における多様性を考慮しつつ、高いレベルの保護を目指さなくてはならない。それは予防原則(precautionary principle)に基づくものであり、また、予防的(preventive)措置がとられ、環境的ダメージは優先的にその根源から矯正され、汚染者が支払うという諸原則に基づかなくてはならない。
     これに関し、環境保護要求に応える調和の取れた措置は、可能なら、共同体の査察手続きの対象となるが、加盟国は経済ではなく環境的理由のために予備的措置をとることができる保護条項を含まなくてはならない。


8. アメリカ政府・産業界及び研究センター・NGOs の動き
予防原則とREACH に反対するアメリカ政府や産業界、クリーンな化学物質政策を提案する一部の研究センターや NGOs

■米 EHP 2003年11月号記事 『化学の安全性を求めて手を伸ばす』 からの抜粋
  化学の安全性を求めて手を伸ばす (当研究会訳)
  REACHing for Chemical Safety Environmental Health Perspectives Volume 111, Number 14, November 2003 (原文)
  Institute of Environmental Health Sciences (NIEHS)
  • アメリカ商務省(U.S. Chamber of Commerce)及び、アメリカ化学協議会(American Chemistry Council (ACC) )やヨーロッパ化学産業協議会(European Chemical Industry Council)などの産業グループは、REACH の産業界への影響を和らげるために、REACH は、広範な失業を引き起こし、アメリカ経済に打撃を与え、ヨーロッパは製造業を発展途上国に奪われて産業の空白化を招くと大々的なロビーイング・キャン ペーンを展開した。

  • ブッシュ政権は、「 REACH を弱めるために非常な努力をした」 と WWF の有毒物質計画担当ダリ・ディッツは述べている。2003年5月18日のニューヨーク・タイムズの記事で、情報規制担当事務所長官ジョン・グラハムは EU 調査委員への話の中で、ブッシュ政権は予防原則について、「考慮すべき重要なものは何もない。架空の概念、多分、ユニコーンのようなもの」とみなしている と語った。

  • ニューヨークを拠点とする NGO  ”Environmental Health Fund (EHF)” が発表した報告書 『アメリカのEU化学物質政策への干渉 US Intervention in EU Chemical Policy』 は、ブッシュ政権が REACH の弱体化を図るために不適切なやり方(inappropriate means)をしたとして糾弾している。この報告書は、 ”企業が政府へ与えた影響に関する議会の徹底的な調査” を要求している。
     アメリカのEU化学物質政策 (REACH) への干渉 (当研究会部分訳)
     US INTERVENTION IN EU CHEMICAL POLICY (原文PDF)

  • 汚 染防止毒物事務所(Office of Pollution Prevention and Toxics)の EPA 当局者によれば、 EPA は、アメリカ通商代表部、国務省、及び商務省とともに我々の ”経験とアプローチ” を共有し、REACH 開発者たちに直接会ったが、取り仕切ったのは大部分他の機関の人たちであったと言い訳している。この EPA 当局者は、 「提案されている REACH は本質的に高くつき、煩雑であり、非常に複雑な手続きが必要である。我々は、実施にあたってそれが本当に有効に機能するのか懸念している」 と述べた。

  • アメリカ政府と産業界の圧力が功を奏し、9月下旬に REACH は下記の様に変更されることが判明、環境 NGOs は落胆した。
    • 化学物質の川下ユーザーは彼らの製品を登録することを要求されず、輸入者は、化学物質が危険であると分類され、かつ、製品から放出されることが意図されている場合にのみ、彼らの商品を登録しなくてはならない。
    • 登録データベースの透明性は、登録会社名を自動的に匿名とすることになり、不明瞭となった。
    • ポリマーはほとんど全て除外されることとなった。
    • 年間製造量が10トン以下のものは、化学的安全性レポートが要求されなくなった。

  • これらの変更にもかかわらず、 ACC は変更ドラフトでもまだ受け入れることができず、2003年10月9日にプレスリリースを発表し、RERACH は、混乱し、無駄で、非効率的な官僚主義であると述べた。

■アメリカの研究センター/NGOs の提案
 アメリカ政府や産業界は予防原則や REACH に徹底的に反対しているが、そのような環境の中で、持続可能なクリーンな化学物質政策を提案している研究センターや NGOs もある。以下に、
 ・ローウェル・センター (Lowell Center Chemicals Policy Initiative 及び
 ・クリーン・プロダクション・アクション (Clean Production Action) の提案を紹介する。


9. ヨーロッパでの REACH 推進
 欧州議会内会派 グリーンズ/欧州自由連合、国際化学物質事務局(ChemSec)
■欧州議会内会派 グリーンズ/欧州自由連合
 欧州議会内でREACHを推進するグリーンズ/欧州自由連合(The Greens/European Free Alliance)は小冊子 『EU 化学物質政策の探索ガイド REACH 何が起きたのか、なぜ?』を2004年3月に発行した。
 REACH - The Only Planet Guide to the Secrets of Chemicals Policy in the EU. What Happened and Why?

 発行・編者インガー・ショーリング (Ms Inger Schorling) はスウェーデンの緑の党の創設者の一人であり、1995年から2004年までEU議会議員で、議会内のグリーンズ/EFAのメンバーであった。2001年 に欧州議会の環境委員会において報告者(Rapporteur)として白書に関する報告を行った。

当研究会では編者インーガーさんの快諾を得て下記の翻訳を行った。
 EU 化学物質政策の探索ガイド REACH 何が起きたのか、なぜ?
 ・第1部 化学物質 (PDF 368KB)
 ・第2部 政策 (PDF 503KB)
 ・第3部 背景  (PDF 535KB

 この小冊子の紹介では次のように述べている。
 「雨粒に、母乳に、そして血液に危険な化学物質が含まれている時には、何かよくないことが起きている。1998年以来、EUは人間の健康と環境の安全を増すために、ひとつの化学物質政策を開発している。 しかし、この新たな政策は化学産業を守ることの方に重点を置くようになってきた。 どのようにしてそうなったのか?誰がやったのか?何が起きたのか?そして一体なぜそうなったのか? EU化学物質政策の探索ガイドは、政治家、メディア、そして市民が、この複雑な世界を探索するのを手助けするためのガイドである」。

 この小冊子は、第1部:化学物質、第2部:政策、第3部:背景−からなっており、化学物質が人間の健康と環境に及ぼす影響、ヨーロッパ化学産業界の概 要、ヨーロッパの環境政策と関連条約、REACH提案に至るまでの経緯、2001年白書、2003年5月REACH草案、2003年10月REACH最終 提案、産業界の巻き返し、ブレア、シラク、シュレ−ダーの動き、ブッシュ政権の干渉など、REACH 及び、その背景について、EU議会でREACH規制案の策定に深く関わった著者が詳しく解説している。

■国際化学物質事務局(ChemSec)
 国際化学物質事務局T(The International Chemical Secretariat) は2002年にスウェーデン自然保護協会(The Swedish Society for Nature Conservation)、 世界自然保護基金スウェーデン支部(WWF Sweden)、スウェーデン青少年自然保護協会(Faltbiologerna)及びFoEスウェーデン(Friends of the Earth Sweden)によって設立されたNGOであり、現在、REACH推進を主な活動として行っている。

 最近、ChemSecが発表した『 REACHの中で我々が必要とすること(What we need from)』は、より強化された REACH に賛同する企業及び団体が寄せた REACH に期待する記事をまとめたものである。

・What we need from REACH - a new publication where companies and organisations argue for a stronger European chemical legislation. (原文): HTML   PDF

REACHの中で我々が必要とすること (ChemSec 報告書)(05/03/11)
   H&M(衣類、化粧品販売業)(05/03/11)
   Boots/Marks & Spencer(小売業)(05/03/11)
   ETUC(欧州労働組合連合)(05/03/14)
   EUREAU(欧州上下水組合連合)(05/03/23)
   NCC (建設業)(05/03/29)
   EURO COOP (欧州消費者共同組合連合)(05/03/30)
   Electrolux (台所設備、掃除、屋外用機器)(05/03/31)


10. 化学物質汚染のない地球を求める東京宣言
 化学物質汚染のない地球を求める東京宣言推進実行委員会

 「化学物質汚染のない地球を求める東京宣言」は、7つの市民団体が11月23日に開催した国際市民セミナー「EUの新しい化学物質規制−REACH 」−化学物質汚染のない世界をめざして−の場において参加者有志により採択されました。
 私たち「化学物質汚染のない地球を求める東京宣言推進実行委員会」は、本宣言に対するより多くの市民の賛同を集め、日本政府に提出するとともに、EUをはじめ国際社会にも広く伝えていきたいと考えています。

詳しくは実行委員会のウェブサイトをご覧ください。
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tokyo/

化学物質汚染のない地球を求める東京宣言推進実行委員会
有害化学物質削減ネットワーク、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議、
化学物質問題市民研究会、WWFジャパン、全国労働安全衛生センター連絡会議


11. REACH 関連資料

■EU / ECB / 関連プロジェクトの資料
■REACH 各国政府、機関、団体、等からのコメント
■REACH 経済産業省資料
■国内団体 / 研究会の資料
■海外機関 / NGOs の意見・提案
■記事・報道資料
■REACH 当研究会資料
■REACH 関連リンク


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