イネ穂いもち圃場抵抗性遺伝子Pb1の菌系特異性と葉いもち抵抗性


[要約]
いもち病抵抗性遺伝子Pb1による葉いもち抵抗性発現と穂いもち抵抗性の菌系特異性について、Pb1準同質遺伝子系統を用いて検定した結果、葉いもち抵抗性は11葉期以降高まり、穂いもち抵抗性に菌系特異性はみられない
愛知県農業総合試験場・山間農業研究所・稲作研究室

[連絡先]	05368-2-2029
[部会名]	生産環境
[専門]	作物病害
[対象]	稲類
[分類]	研究

[背景・ねらい]
縞葉枯病抵抗性品種「Modan」に由来する穂いもち抵抗性遺伝子Pb1を導入した品種が育成され、温暖地の縞葉枯病発生地帯を中心に普及しているが、今 後、中山間地、東日本を含む地帯のへの拡大が考えられる。本遺伝子を持つ品種が作付けされてから19年が経つが、現在まで本抵抗性を持つ品種の崩壊は報告 されていない。しかし、本抵抗性は1因子の主動遺伝子によることが知られており(藤井ら、1999)、本遺伝子を持つ品種を特異的に侵す菌系の出現によっ て多発する危険性がある。そこで、本遺伝子による葉いもち抵抗性の発現及び穂いもち抵抗性の菌系特異性について検討する。

[成果の内容・特徴]
  1. 「あいちのかおり」(以下「かおり」)に対して、あいちのかおりを3回戻し交配したPb1準同質遺伝子系統「あいちのかおりSBL」(以下「SBL」)では、11葉期以降、病斑数が急激に減少し、病斑面積が小さくなることにより、葉いもち抵抗性が高まる(図1図2)。

  2. Pb1を持つ「月の光」は、Pb1を持たない「イナバワセ」に比較すると、止葉及び次葉における付着器形成率はやや低下するに止まるが、侵入率は大きく低下し、菌糸伸展率は0となることから、本抵抗性はいもち病菌の侵入及び伸展時に発現していると考えられる(表1)。しかし、稲体の珪酸含量は「かおり」、「SBL」間に差はみられない。

  3. 主としてPb1を持つ品種から分離したいもち病菌54菌系を「かおり」と「SBL」に切穂噴霧接種した結果、「かおり」に対する「SBL」の罹病籾率は菌系により変動するが、「かおり」より罹病籾率が高い菌系はみられない(図3)。

  4. いもち病菌系の病原力は、Pb1を持つ「月の光」の穂を2回通過させた後でも増加しない(図3)。

  5. 以上の結果から、いもち病抵抗性遺伝子Pb1による葉いもち病抵抗性は11葉期以降高まり、穂いもち抵抗性に菌系特異性はみられない。

[成果の活用面・留意点]
  1. Pb1によるいもち病抵抗性は量的な抵抗性であるため、気象条件等によっては罹病籾率が高くなることがある。

[具体的データ]

図1
:噴霧接種によるPb1品種の葉いもち病斑数比率の葉令別推移

図2
:パンチ接種によるPb1品種の病斑拡大

表1
:「月の光」からの分離菌の侵入行動

図3
:主としてPb1品種より分離したいもち病菌のあいちのかおり及びあいちのかおりSBLの切穂に対する病原性

[その他]
研究課題名:いもち病菌の変異機構の解明と抵抗性検定法の開発
予算区分 :国補(指定試験)
研究期間 :平成12年度(平成6〜12年)


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