禁断の科学裁判
 
−−−ナウシカの腐海の森は防げるだろうか−−−

まだイネを食べても安心か、それとももう最後の晩餐会は間近か?
――近年の大規模食品事故の教訓から遺伝子組換え実験の安全性を問い直す


近年、社会衛生の素晴らしい向上とは裏腹に、O157食中毒やBSE(狂牛病)や鳥インフルエンザなどの大規模食品事故・深刻な生物災害が続発しています。このような食品事故・生物災害は、たまたま自然発生的に生じたものではなく、人為的な操作が引き金となって発生した可能性が極めて高いものです。

他方で、遺伝子組換え技術は「あらゆる生物的障害や境界をこえて遺伝子を移転させる、人間の歴史上前例のない技術上の力業」であり、これまでの機械的な技術とは本質的に異なります。つまり、遺伝子が作り出すタンパク質は、ゲノム中の他の遺伝子が作り出すタンパク質と相互作用することによってその機能を発揮しますが、遺伝子組換え技術により外部から組み込まれた新しい遺伝子が作り出すタンパク質がもたらす前述の相互作用をすべて予見することは不可能であり、それゆえ、この相互作用中に新たな問題をもたらすことがあるのは十分に考えられるからです。

また、ゲノムは本来、全体としてひとつの動的な平衡状態をとって個体(イネの場合であれば、イネ一株のこと)をつかさどりますが、その一部(の遺伝子)が人為的に組み換えられることによって、部分的にせよ平衡状態が破られると、全体はその不均衡を回復しようとします。このとき個体に対して生じるかもしれない害作用をあらかじめ予想することは殆ど不可能です。

その遺伝子組換え技術を使ったGMイネの野外実験が、新潟県の北陸研究センターで、昨年に続き今年も予定されています。このGMイネは、カラシナの遺伝子をイネに組み込み、ディフェンシンという殺菌作用を持つタンパク質を作り出し、いもち病などイネの病原菌を殺菌しようというものですが、他方で、ディフェンシンという殺菌作用を持つタンパク質がイネにどのような害作用を及ぼすおそれがあるのかどうか、いまだにその安全性は確認されておらず(北陸研究センターは、ディフェンシンはイネの食用部分では「通常」作られないから心配ないとしか言いません)、さらに、具体的な問題として、遺伝子組換えにより抗菌タンパク質を常に作り続けることから、この抗菌タンパク質で死なない新たな菌=耐性菌の出現が強く懸念されています。

今回の遺伝子組換えの実験で作り出すディフェンシンは、植物のみならず、広く昆虫、動物、ヒトが病原菌から身を守るために作り出している抗菌たんぱく質の一種です。そこで、今回の実験により耐性菌が出現した場合、それは、植物のみならず、昆虫、動物、ヒトが病原菌から身を守るために作り出している抗菌たんぱく質=ディフェンシンが効かなくなる耐性菌である可能性があります。そのために、この問題を知った国内のみならず世界中の研究者・専門家が警鐘を鳴らす声をあげています。

にもかかわらず、つい先ごろも、北陸研究センターは日本育種学会の発表の場で、あくまでも「耐性菌は出ない」という前提で、この問題は一切検討していない旨を発言しました。

確かに、現在のところ、耐性菌出現による被害の(事実は不明ですが)その報告はありません。しかし、耐性菌が出現し被害発生が報告されたときには、それは回復不可能な被害をヒトと生態系全体に及ぼすおそれがあります。それはついこの間、O157食中毒やBSE(狂牛病)や鳥インフルエンザなどで私たちが痛切な体験をしてきたことです。

にもかかわらず、また性懲りもなく、同じ過ちを犯そうしているのではないでしょうか。これまで私たちは、いつも被害が発生してからその対策を考えてきました。しかし、今、私たちに突き付けられている課題とは、生物災害の発生の可能性が予見できるとき、今までのように手をこまねいていていいのか、よくないのなら、ではこれとどう取り組むべきかということです。生物災害のリスクとどう向き合うべきか、という最先端の課題について、狂牛病のリスクについて積極的な発言を続ける分子生物学者の福岡伸一さんから、お話を伺います。



演題  まだイネを食べても安心か、それとももう最後の晩餐会は間近か?――近年の大規模食品事故の教訓から遺伝子組換え実験の安全性を問い直す(仮題)

日 時:2006年4月21日(金)午後3:00〜5:00 
場 所:飯田橋セントラルプラザ 16階 A会議室
     (JR飯田橋駅北側ビル、東西線、有楽町線飯田橋駅直通)
講 師:福岡伸一さん(青山学院大学化学・生命科学科教授)
著書:「もう牛を食べても安心か」(文春新書)、
「プリオン説はほんとうか?」 講談社 (ブル−バックス ) 他
資料代:1000円

問合先:遺伝子組み換えイネ裁判支援ネット事務局
TEL/FAX 045−962−0508  Eメール vision21@ps.catv.ne.jp


関連情報のメニューへ